2021 Fiscal Year Research-status Report
Functional Features of Transformative Assessment and Methods for Lesson Design in Physical Education
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21K02447
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
森 敏生 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30200372)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 学習評価 / 形成的アセスメント / 学習のための評価 / 学習としての評価 / フィードバック / 変容的評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、体育科教育における学習評価論の刷新につながる変容的評価(transformative assessment)の位置づけと役割を明示し、これからの体育科教育において求められる新たな学習(その指導)と一体となった変容的評価が効果的に働く要件を導出することによって、変容的評価を実装した授業をデザインする原則的な方法を明らかにすることである。 今年度は、学習科学や学習理論の転換のなかで変容的評価という考え方がなぜ、どのように生まれてきたのかを、国内外の学習評価論の先行研究から理論的・概念的に確認することを主たる課題とした。その結果、以下のようなことが導かれた。 第一に、かつての形成的評価論は教師中心のカリキュラム・授業改善に軸足をおき、「指導と評価の一体化」を企図していた。それに対して形成的アセスメントは子どもの学習、なかでも学習の動機づけや自己評価に役立つ点に着目する。評価は指導との一体化のみならず学習に連動する。第二に、学習との連動は「学習のための評価(assessment for learning)」と概念化され、学習目標の明確化、目標に対する現在の学びの把握、現在の学びを目標に接近させる指導や学びの調整の過程と理解される。目標と現在の学びのズレを縮減する指導と学びの改善につながるフィードバックが重視される。つまり、「学習のための評価」の有効性は学習成果の達成・向上と関連して論じられる傾向があり、その特徴は規準となるカリキュラム目標に学習を「収束」させる働きを重視する点にある。第四に、学習のダイナミックな複雑性を理解し、変革的・創造的な学習の実現を課題とするならば、社会構成主義的な認識論・方法論から「学習のための評価」「学習としての評価」の可能性を探り、学習における発散、変容、創発をともなう変容的評価の役割ついて考えてみる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内外の学習評価論の先行研究の収集と検討を概ね進めることができた。欧米を中心とした1990年代以降の形成的評価論から形成的アセスメントへの理論的な展開について確認できた。 さらに「学習の評価(assessment of learning)」、「学習のための評価」、「学習としての評価」の3つの概念化とそれらの関係についての理論的・実践的な検討について概観した。そこには必ずしも定まった理解がないが、学習理論や学習科学の進展に基礎づけられて「学習としての評価」が重視されるようになっていることがわかった。ただし、これらの学習評価論の刷新は、新自由主義的な教育改革の影響からスタンダードとなる資質・能力のアセスメントに集約される傾向があり、こうした傾向への批判的な考察も進んでいる。こうした文脈においてスタンダードに収斂しない変容的(変革的)評価の必要性が論じられている。他方で、21世紀型スキルの育成との関連で社会構成主義的な知識構築(創造)学習の研究が進んでおり、学習状況に埋め込まれた変容的評価の必要性が学習デザインの構成とともに実践的・実証的に検討されている。それは主として科学教育が中心で体育科教育については先行研究がほとんど見当たらない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況に示したように、変容的評価の必要性、位置づけ、役割については、これまでの学習評価論の理論的・実践的な展開と刷新、そして21世紀型スキルの育成に関わる知識構築学習論において一定の検討が進められてきている。しかし、それは科学教育のような知識構築・知識創造のプロセスが捉えやすい領域が中心であり、しかもCAL(Computer-Assisted Learning)あるいはCSCL(Computer-Supported Collabrative Learning)として高度な協働学習システムの開発をベースとしている。したがって理論的・原理的な基礎の理解を深めるとともに学習デザインの方法論についても実践的な観点から検討し、それらを参考にしながら体育科教育領域への展開・応用可能性を検討したい。具体的には、協働的な認識学習を技術・戦術やルールの学習において重視しつつ、未知な問いへの探究を積極的に進める体育授業、いわば「わかる」「考える」「創造する」ことを大胆に課題にすえた小学校高学年以上の体育授業への展開可能性と、総合的な学習に位置づけて展開される対話的で協働探究的な健康教育の実践などが、変容的評価の役割を実践的に考察するのに適していると思われる。
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Causes of Carryover |
研究1年目は長引くコロナ禍の影響が続いており、予定していた研究協力者との協議並びに学会での研究発表のための国内旅費の支出がオンライン対応によりなかった。同様の理由で、計画していた専門的知識を得る機会もなく、対面での協議のための会議費の支出もなかった。 他方で、学習評価に関する図書費の一部を支出するとともに、次年度に予定していた授業研究用の映像分析・データベース作成ソフトを年度末に前倒しで購入した。 withコロナへの転換が進んでおり、次年度は予定していた国内の研究協力者(大学の研究者並びに教育現場の協力者)との対面での協議を開始し、また学会での研究発表を対面で行う予定で、一定の国内研究活動の展開が可能になってくると考えている。また、渡航環境が整ってくれば、カナダトロント大学で推進されている知識構築学習と変容的評価研究の調査と情報収集を行う予定である。
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Research Products
(3 results)