2021 Fiscal Year Research-status Report
ポーランド初等教育の美術における技法、材料、指導法についての調査研究
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21K02449
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
南雲 まき 立教大学, 文学部, 特任准教授 (40806626)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 美術教育 / 図画工作 / 版画 / リノカット / ポーランド |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度についてはポーランドで使用されている小学校の美術の教科書を入手し、その内容をもとにどのような技法や材料をもちいて美術の授業が行われているかについて研究を行った。 教科書で不明な部分はポーランドの現役小学校教員3名にオンラインで聞き取り調査を行った。その結果、具体的な指導方法についても日本とポーランドにおける共通点、相違点等が明らかとなった。 技法研究においては、ポーランドは特に版画が盛んな国であるため、初年度においては特に版画技法について中心に研究を行った。日本では小学校で扱うことのない銅版画(エッチング等)についての記述も教科書にあり、凸版、凹版、孔版、平版など様々な版種について扱うことがわかったが、2021年度はそのなかでも特にリノカットという技法に注目をした。 リノカットという技法が世界では最も多く制作者がおり、世界的には主流な版画技法でありながら日本ではほとんど行われていない技法である。リノカットは木版画と同じ凸版で、木粉と石粉、コルク粉などを亜麻仁油で練り、酸化によって硬化させたリノリウムを版材とする版画技法で、日本の小学校図画工作で使用される木版画用の彫刻刀で容易く彫ることができる。バレンや足踏みなどで刷ることができ、プレス機を用いれば紙にエンボス(凹凸)をつけて刷ることもできる。 版画技法の多くは腐食槽や換気設備など専門の設備を必要とするが、リノカットは用具が安価で特殊な用具も不要であり、ピカソなどの近代作家から現代の作家も使用している技法であるため、学校教育に取り入れやすく、また、取り入れる価値のある技法と考えられる。 学校教育に取り入れることを想定して、日本で入手可能なリノリウム、インクなどを試し、技法研究を行った成果を大学美術教育学会の論文で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症のため、ポーランドへ渡航することが困難であり、現地での画材の収集や学校での授業の様子を見ることはできなかったが、現地小学校より現地で使用している美術の教科書を送付して頂くことができた。また、オンラインでのインタビューを現地小学校の教員に対して行い、そのなかで子どもの作品や、その作品を作るときの授業の様子等についての聞き取りができた。 日本では行なっていない特徴的な技法として、特にリノカットという版画技法に注目し、技法研究を行い、論文として発表することができた。 ポーランドへ渡航して調査を行うという当初の計画とは異なる形とはなったが、渡航できない状況のなかでかろうじて研究を進展することができているため「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度についてはポーランドへの渡航ができる見通しであるため、現地での調査を計画している。しかし、渡航が困難な状況であっても、2021年度の研究手法を継続し、物品の郵送、オンラインでの調査や会議を行いながら研究の推進が可能であると考える。現地研究協力者が複数人おり、現地からの研究推進のサポートを期待することができる。 2022年度においては版画技法についてはリノカットに続き「モノタイプ」についての研究を行う。また、日本では高学年で塩ビ板を用いたドライポイントを行う場合がある他は、小学校で凹版の指導を行うことは稀であるが、紙を用いたドライポイント技法について研究を行い、小学校の図画工作でも多様で子どもの表現を豊かに引き出す凹版の技法について研究を行う。 日本では版画分野については石川県の金沢市にある湯涌創作の森版画工房と北海道の札幌市にある札幌芸術の森版画工房の研究協力を得られることとなった。 また、日本ではクレパス等の描画材は主に小学校低学年で線描に用いられることが多いが、ポーランドの小学校では油絵等の重層表現につながる指導の基礎として用いられるため、日本のクレパスを用いた重層表現についても技法研究を行いたい。 日本でクレパスを学校教育に導入したのは自由画教育運動で知られる山本鼎であり、山本鼎は洋画家・版画家であり、ヨーロッパの美術の技法を日本の教育に導入しようと考えクレパスを教育に用いたため、大正期から昭和期の日本の図画工作においてはポーランドのクレパスの使用方法に近い表現が見られる。それらの歴史も参照しながら研究推進を行い、論文発表、口頭発表を行い、教育と社会に還元していきたい。
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Causes of Carryover |
当初計画においては2021年度にポーランドへ渡航し、調査研究を行う予定であった。新型コロナウイルス感染症の影響により、2021年度内にポーランドへ渡航することが困難であり、年度内に何度か渡航を計画したが、結局実現することができなかった。代替としてオンラインで調査を推進したが、やはり、現地で画材等の収集をする必要があるため、2022年度に渡航を延期することとした。また、当初、購入を予定していた小学校美術の教科書を収集する際、実際に小学校で使用されていた教科書を学校より無償で提供して頂くことができた。そのため次年度使用額が生じた。 次年度使用額については現地での画材の購入、及び、提供された教科書で網羅しきれない分と、提供された教科書よりあとに出版された教科書の購入の費用、それらの送料に充てる計画を立てている。
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Research Products
(3 results)