2023 Fiscal Year Research-status Report
ポーランド初等教育の美術における技法、材料、指導法についての調査研究
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21K02449
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
南雲 まき 立教大学, 文学部, 特任准教授 (40806626)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 美術教育 / 図画工作 / ポーランド |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度はポーランドへ調査研究に行き、現地の公立小学校や美術系の学部を擁する大学の附属高校の美術の授業を見学し、美術科の教員にどのような画材や素材を用いてどのような指導を行なっているのかなどの聞き取り調査を行なった。その結果、小学校の低学年からキャンバスと不透明水彩を用いての重層構造をもつ絵画を描くような実践を公立小学校で実践していることや、高校においては寒色と暖色の2色のみを用いて静物画を描くにあたり、紙を細長く折って作った簡易のペインティングナイフを用いて、生徒が対象の形態を大きく捉えることができるようにするなど、ポーランドの学校で用いられている画材や指導法の工夫について知ることができた。 また、ポーランドの公立小学校で用いられている美術の教科書と日本の教科書の比較も進めていった。その結果、ポーランドの美術教育においては、過去の美術の歴史を学び、児童がそれらを参照しながらそれぞれの表現を模索するような教育が主に行われているということがわかっていった。日本では小学校段階では過去の作家の美術表現に学ぶよりは、子どもの創造性や自己表現を重要視する教育が行われているため、両者の考え方の違いは大きい。 2023年度は何故、そのような考え方の違いが生じているのかについても考察を進めていった。日本は明治期に西洋の美術作品を一度に受容し、西洋の美術表現を大きく「自己表現」として捉えたということが、西洋美術を日本に紹介するのに大きな役割を担った白樺派の残した文章から読み取ることができる。また、日本においては明治期に「美術」という語が生まれ、「美術」という概念もまた生まれた。日本の西洋美術の受容と「美術」概念の誕生と日本の美術教育がどのようにつながっているのかについては十分に明らかにすることができなかったため、次年度以降、引き続き取り組んでいく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
世界的なパンデミックのため、全体的にやや研究の進捗は遅れている。しかし、ポーランドの小学校教員等へのオンラインでの聞き取り調査等を行うことで調査研究を進めることができた。また、現在は渡航が可能な状況になっているため、2023年度には現地の学校や美術館等での調査を進めることができ、その成果を日本国内で発表することもできており、2024年度からはより本研究課題に集中することが可能な状況が整っているため、進捗の遅れを取り戻すことができるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ポーランドの初等教育における美術教育の調査研究を行う中で、これまでに版画分野のなかでも特にポーランドで盛んなリノカットという版画技法について、そして絵画分野、彫刻分野、現代美術の分野についての調査を行った。それらの分野についても引き続き調査を進める。ポーランドは社会主義体制下において純粋芸術の表現が抑圧され、当時、比較的多様な表現が許されたポスター等のデザインに様々な分野の表現者が流入したという歴史から、グラフィックデザインが発展したという歴史をもつ。そのような背景のもと、2024年度についてはデザイン分野に注目しての調査を行なっていきたい。また、社会主義体制下のポーランドにおいて、ポスターとともに発展した分野に映画がある。ポーランドにおいては映画や演劇も美術教育の範疇で扱われる重要な分野である。日本においては美術、図画工作教育の範疇で語られることの少ない、映画や演劇が、ポーランドではどのように美術教育の文脈で扱われているのかについても今後、調査を行いたい。 また、ポーランドと日本の現在の美術教育を比較するだけではなく、それぞれの国の美術教育が何故、そのような形になっているかについても考えていく必要があると考えている。日本の美術教育のルーツについても研究を深めていきたい。 日本の美術教育が何故、現在のような形であるのかを考えるためには、美術教育の歴史だけでなく、日本が西洋の美術をどのように受容し、新しく「美術」という語を作った際に美術をどのように規定していったのか、美術と美術教育はどのような関係にあったのかなどについても考える必要がある。2024年度については、ポーランドの美術教育の研究と並行し、それらの研究も進めていきたいと考える。
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Causes of Carryover |
研究期間前半まで渡航調査、海外からの物品輸送が困難で、オンライン等代替の調査方法で実施してきたため次年度使用額が生じた。 2024年度以降は渡航費やほかの調査費用等に使用する予定である。
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