2022 Fiscal Year Research-status Report
中学校における地層学習の理論検証と地層形成実験・授業の開発
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21K02463
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
廣木 義久 大阪教育大学, その他, 副学長 (80273746)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地層モデル / 地層断面図 / 沿岸域 / 教科書 / 実験 / 中学校 / 理科 / 第2分野 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究では,中学校理科教科書に掲載されている沿岸域の地層断面図を精査し,それらの地層断面図の妥当性を学術論文等で提案されている地層モデルとの比較により検討した。その結果,教科書に掲載の沿岸域の地層断面図はタイプA~Gの7つに分類され,そのうち,タイプE,F,Gは学術的に妥当であるが,タイプA,B,C,Dは学術的に問題があると考察された。本年度の研究では,上記の学術的に妥当な地層モデルに描かれている地層の重なりに整合的な地層を形成させるための実験の開発を行った。 本研究では直線型水路内に三角板を用いて波を発生させ,そこに砂・泥を投入することで,沿岸域における地層形成を再現させる実験を試行した。水路内に直線状あるいはS字状の斜面を設けた2種類の水路を用意し,それぞれの斜面の傾斜角度を変えた6つの実験(実験A-1:直線状で傾斜角4度,実験A-2:直線状で傾斜角7度,実験A-3:直線状で傾斜角9度,実験B-1:S字状で最大傾斜角18度,実験B-2:S字状で最大傾斜角20 度,実験B-3:S字状で最大傾斜角21度)を行い,それぞれの実験においてどのような地層が形成されるかを調べた。 実験の結果,実験A-1においては形成された地層の特徴が沿岸域における学術的に妥当な地層モデルとは異なっていたが,それ以外の実験において形成された堆積体は,陸側から海側に向かって,海側に緩く傾斜する砂層,海側に傾斜するS字状の砂層からなる砂体とそこに挟まれる泥層の薄層,海側に緩く傾斜する細粒砂層と泥層の互層,泥層から構成され,沿岸域において形成される地層の特徴を備えていた。したがって,実験A-2,実験A-3,実験B-1,実験B-2,実験B-3はいずれも沿岸域における地層形成実験として中学校理科の実験として実施できる可能性があると結論付けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は,学習指導要領の内容に整合的で,かつ,地層形成理論に合致するとともに,中学校理科で実施しやすい地層形成実験を開発することであった。沿岸域における砕屑物は,一般的には,波浪が卓越した通常流下で運搬・堆積される。そこで,直線型水槽を用いた波浪をともなう通常流下における地層形成実験の開発を目指した。 本研究では直線型水路内に三角板を用いて波を発生させ,そこに砂・泥を投入することで,沿岸域における地層形成を再現させる実験を試行し,水路内に直線状あるいはS字状の斜面を設けた2種類の水路の斜面の傾斜角度を変えた6つの実験を行い,斜面の形状と傾斜角度の違いによってどのような地層が形成されるのか,それらの地層は沿岸域の学術的に妥当な地層モデルに整合するものかどうかを検討した。その結果,6つの実験のうち,5つの実験において,沿岸域における地層モデルに見られる地層の特徴を備えた堆積体が形成され,それらの実験は中学校理科で実施する沿岸域における地層形成実験として実施できる可能性があると結論付けられた。 以上のように,本年度は,ほぼ当初の実施計画通り研究を遂行することができたことから,現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,ほぼ当初の実施計画通り研究を実施することができた。特に,沿岸域における砕屑物の堆積現象に合致する実験方法,すなわち,波浪が卓越した通常流下での堆積現象を再現し,沿岸域における学術的に妥当な地層モデルに見られる地層の特徴を備えた堆積体を形成できることが明らかとなった。これまでの教科書で取り上げられている実験としては,水槽に貯めた水の中に土砂を流し込む実験があるが,そのような実験は“通常流”による実験ではなく“堆積物重力流”による実験である。今回,沿岸域の地層形成実験として,造波をともなう通常流の実験の実施の可能性が明らかとなったことにより,中学校理科における,学習指導要領の内容に整合的で,かつ,地層形成理論に合致する新たな地層形成実験の導入の見通しが立った。一方で,既存の地層形成実験としては,三角州(デルタ)の形成実験はよく実施されてきた実験であり,その実験によって形成される堆積体は学術的にも妥当なものである。次年度は,本年度,本研究で開発した地層形成実験(直線型水路内に三角板を用いて波を発生させ,そこに砂・泥を投入する実験)と既存の三角州の実験について,実際に授業で実施する際の課題を明らかにし,再来年度(本研究の最終年度)に実施を予定している授業実践で行うのに最適な実験条件等について検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は69,429円である。新型コロナウィルス感染拡大の影響で,当初計画していた学会参加旅費ならびに試料採取調査旅費および実験補助の謝金において当初の使用計画よりも少ない支出となったが,実験のための物品費とその他の経費への支出と合わせて,使用額全体としては,ほぼ予定どおりの予算執行となった。生じた次年度使用額については,次年度の地層形成実験開発に必要な材料費等に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)