2021 Fiscal Year Research-status Report
新しい日本列島の形成論に基づく自然景観の学習の転換
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21K02480
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
林 慶一 甲南大学, 理工学部, 教授 (10340902)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本列島の成り立ち / 地域の自然景観 / 地形3Dモデルの作成 / 地質図のプロジェクションマッピング / プレートの運動と応力場 / 教育用の地史 |
Outline of Annual Research Achievements |
科学の世界では,日本列島の大地形の成り立ちがプレートの運動に基づいてよく説明できるようになってきていることを受けて,教育の世界の列島の形成史や地域の自然景観の成り立ちの学習内容や探究方法をアップデートすることが本研究の目的である。 当初の計画では日本列島を応力場の視点から7つの地域に分け,3年間で2,3地域ずつ野外調査を踏まえて代表的な地形を抽出して,地形モデルを製作してその上に地質図をプロジェクションマッピングして,地質との関係の視覚化できる教材を順次開発していく計画であった。しかし,新型コロナウィルスの蔓延のため,野外調査が年度末までできなくなったことから,室内でできることを主体とする形で計画の順序を変更して,①初年度から3年間をかけて完成する予定であった地形モデルの製作と地質図のプロジェクションマッピングの技術開発を前倒しして行い,②4年間の全期間にわたって順次進めていく予定であった日本列島の成り立ちについての最新の科学研究を教育用にまとめる作業を,少し前倒しして多めに処理し,③目指す教材が高度な探究であることから,他分野の研究者とともに,直線的ではない紆余曲折の探究の過程の指導のあり方を研究した。 これらの成果は,①については,従来の博物館等での大型で高価な装置を用いる方法から,学校現場で作成可能な3Dプリンターによる地形模型の作製とその複製,既存のプロジェクターの流用でプロジェクションマッピングを可能にする方法を開発した。(林,2021)。②については,日本列島の大陸からの分離とフィリピン海プレート内で四国海盆の拡大,同プレートの北上による櫛形山塊を初めとする海洋性島弧の衝突による日本列島中央部の変形などをストーリー化した。③については,従来の成功へ直線的に繋がるような過程とは異なる,複雑な過程が探究の実態であることを示した(原田ほか,2021)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では,初年度から3年度まで日本列島をプレート運動から7つの地域に分けて順次調査し,合わせて地形モデルと地質のプロジェクションマッピングを組み合わせた教材化を図り,最終年度に日本列島の地史と,その中での「地域」の自然景観の成り立ちを学ぶ学修方法を,教育実践を踏まえて完成することとしていた。 しかし,新型コロナウィルスの蔓延で国内での移動が制限されたため,野外調査を主体とする本研究の計画を見直し,室内で実施可能な地形モデルと日本列島の教育用の地史を最新研究に基づくものに更新する作業を前倒しし,野外調査に先行して実施することとした。この意味で野外調査計画の側面からは大きく遅れていることになるが,一方で,最新の日本列島の地史を早期に把握できたので,今後の野外調査での目的を明確にでき調査対象を絞り込むことが可能になったので,遅れは少し挽回できると考えている.また,最新研究をレビューすることで,旧来の説に基づく地史に対してここ10年ほどの間に急速に説得力を持つようになった新説の登場の経緯を把握でき,これを整理した出版物はないので,本研究全体に関わるオリジナルな素材を得られたという意味では大きな進展があった。 また,3Dプリンターを用いた地形模型と地質図のプロジェクションマッピングについては装置開発が順調に進み,それを受けて教員免許更新講習での実践を行い,高い効果と評価が得られた.これは本来は最終年度に行う教育実践による検証の一部であったので,この意味では選考して結果が得られたことになる。 以上のような遅れと進展を総合的に見るとやや遅れているという程度の進捗状況と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度末からは,社会的に新型コロナウィルスへの対応が進み,通常の社会活動に戻りつつあるので,上記のような計画変更に基づいて,令和4年度当初からペースを上げて野外調査を行い,先行して得られている地形モデルや地質図のプロジェクションによる方法と組み合わせて,最終年度までに当初の計画を達成する方針である。 野外調査については,平成4年度からの3年間で,日本列島をプレート運動の応力場の視点から,太平洋プレートが千島海溝で北西に沈み込む応力場の北海道主域,同プレートが日本海溝で西に沈み込んでいる正面の東北日本域,両応力場の境界にあたり複雑な応力場となっている津軽海峡域,フィリピン海プレートが南海トラフで北西に沈み込む直接の影響を受けている西南日本外域,中央構造線により間接的にこの影響を受けている西南日本内域,同プレートが琉球海溝で沈み込む影響を受けている南九州-沖縄域,南海トラフと琉球海溝の境界部での複雑な応力場となっている中部九州域の7地域の野外調査を,各年度2,3域ずつ実施する。 モデル教材については,装置はほぼ完成しているので,上記の各地域の調査と並行して,各地域の自然景観の成り立ちを特徴付ける具体的なモデルを開発する。合わせて,教材の効果的な展開方法を,教育実践を行いながら追求する。 また,日本列島の成り立ちについては,従来の教育方法とは異なる,プレートとその運動の視点から考察する探究的な方法を最終年度に向けて,より精緻なものへと組み立てていく予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度の配分額の多くを占めるのが野外調査旅費および調査に用いるドローン等の機器の購入費であったが,新型コロナウィルスの蔓延による国内移動を抑制する国の方針に従って,計画を見直して当該年度は室内で行える研究を中心として,野外調査を次年度以降に延期することとしたため,次年度使用額が相当額生じた。しかし,これらの調査は計画通りの地域についてほぼ予定の日数で次年度以降にすべて実施し,より改善されたドローン等を購入して進めるので,それらにこの次年度使用額を当てる使用計画である。
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Research Products
(2 results)