2022 Fiscal Year Research-status Report
教師教育における「芸術知」の方法論的解明ー表象と感性の融合を図るプログラム開発―
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21K02502
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Research Institution | Tokyo Future University |
Principal Investigator |
高橋 文子 東京未来大学, こども心理学部, 准教授 (60789931)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 芸術知 / 感性的表象 / 内容的/形式的/形成的方法論 / 美術教育 / 教師教育 / 教材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、芸術に関する形象と感性の統合された方法論的認識を「芸術知」概念と規定し、それらの知見を基に教師教育プログラム開発を行うことである。これまでの検討により以下の成果を得た。 「芸術知」概念に基づく感性的表象の分析指標モデルの核となる作品を3側面の方法論の集積として捉えることは、美術の重層的な表現の解明に有効であった。「Ⅰ内容的側面の方法論」は,事物的内容から,意味的解釈や本質的直観を経て,象徴/説話的内容へ,「Ⅱ形式的側面の方法論」は造形要素や仮象(イメージ)が,感性的形式から質的拡充へ図られた効果的形式へ,「Ⅲ形成的側面の方法論」は,素材を変容させる諸技法の作用によって,質的変容の過程を表し,これらは感性的表象の質的な上昇と呼応した。Ⅰ「テーマや主題の選択等」、Ⅱ「色彩や形態、素材の構成、イメージの生成手法等」、Ⅲ「手の操作や技法による変容等」の各側面の美的な独自性は、内的な理念、外的な事物、それらをつなぐ時間と場を経た変容という異なるレベルの概念に支えられていることを確認した。 具体的な教材の実践から抽出された方法論的認識として、ムナーリの示唆から行った遠隔授業では、共に描く過程を通して律動を備えた美的作法を得て、Ⅱの形式的側面を深めた。孔雀明王図から着想を得て動物の力を借りたヒーローを即興的に描く実践では、Ⅱの形式的側面の墨の濃淡筆致や身近な動物に焦点を当てたことで,Ⅰ内容的側面の表現主題とⅡ形式的側面の構図が効果的に表された。リベット工作では,仕組みに対する内容の適合性が問題となり、教育内容が再検討された。 3側面の視座は,その教材の特性と共に指導のポイントも明確にした。抽出された美的な表象を支える要素は、適切な教材観を導くことから感性的表象の分析指標モデルの有効性が実証された
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
哲学的な美に対する芸術意識をふまえながら先行研究調査を行い、「芸術知」に基づく感性的表象の分析指標の構築を進めることができた。 教材開発例として造形的な形態や機能を創り出す「創造型プログラミング学習」の検討からは、身近な「ぐるぐる回転する」事象から多様な動的認識が導かれた。チームの協働活動によって具現化した感性的表象群は,3側面への異なる力点として発揮され,表現主題が明確になる段階毎にその上昇過程モデルを図化した。特に,内容的側面の再現性から飛躍した観念的世界,形式的側面の量感のあるブロック造形を生かした構造,そして形成的側面の回転の速さや向きを変化させるプログラミング操作は創造型特有の方法論的認識を生み出す教育内容であることを明らかにした。 さらに、シュタイナー学校において低・中学年に必要な教科として実践されている純粋な形態を描くフォルメン線描の形成力の検討を行った。線描群を方法論的認識の3側面(内容的/形式的/形成的)から分析し、特に形成力は「Ⅲ形成的側面」の感性的な強弱のコントロールと空間把握に支えられていることを論じた。さらに「Ⅱ形式的側面」の律動のある形態と「Ⅰ内容的側面」の造形イメージが相互に関わりあうことで、質的上昇を促し形成力を高めることを明らかにした。 コロナ禍の状況からフィールドワーク等の対面の調査を控え、内容検討に止まった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は方法論的認識をさらに他教材の分析に広げて、美的なものを現象させる「ものや材料等のもつ独自の論理性」など、3側面それぞれの独自性を明らかにする。さらに授業設計における教育的な3側面の力点等にも言及し、分析指標を教材の体系化の位置づけ等にも生かす方策を検討する。 申請者の研究課題は、義務教育(小学校図画工作科、中学校美術科)で育てる具体的な児童・生徒のコンピテンシーとその体系化である。そのために小学校6年、中学校3年修了時に習得を目指す現場の教師の教育観とそれらの実現を促す具体的な題材構想について、博物誌的なインタビュー調査を行う。さらに山本正男、より創造性の触発の具体化を提唱するキエラン・イーガンらの文献講読も進め、「芸術知」のもつ考えながら組み立てる活動を総括する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延防止のため、フィールドワークに関する調査活動を控えたため。
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Research Products
(6 results)