2021 Fiscal Year Research-status Report
「自然を描くこと」の教育的意義の形成についての史的経緯の解明
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21K02518
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
大島 賢一 信州大学, 学術研究院教育学系, 助教 (90645615)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 美術教育史 / 自然観 / 近代教育史 / 写生教育 / 自由画教育運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自然を描画する、いわゆる写生を中心とする美術の教育法が、どのような経緯及び芸術、自然、教育思想に基づいて日本の美術教育文脈の中に定位していったか、ということを、長野県の教育事例や教員の言説を中心とした具体的対象に基づきながら実証的に明らかにすることにある。上記目的に照らし、特に本年度は、日本教育史における自然観の変遷、特に美術教育に関わる研究について検討し、現在の問題の所在について明らかとした。 明治期から昭和初期にかけての日本美術教育史上における自然観の変遷の検討については、赤木里香子による一連の研究が詳しい。赤木は西洋的自然観の移入を受けて、形成、変容されていく近代日本の教育史的文脈における自然観の変遷を、新定画帖や自由画教育運動といった美術教育の展開と関連づけて整理することに成功し、その年代的区分を行なっている。一方で、1990年前後に行われた本研究に続く研究としては、自由画教育運動に焦点化したものの中で一部論じられるのみで、他の具体的事例に基づいた実証的な検証の必要性が確認された。 一方、近年、戦前の教育史における自然観変遷について検討したものとしては、林潤平によるものがある。林は、特に理科、地理、国語の教科教育史料をその対象として、日本教育史における自然愛に関する教育論についての検討を行なっている。 加えて、本研究に関わる長野県における事象として、学校登山などの自然体験学習、保科五無斎の活動などの博物学的教育、ペスタロッチ主義の移入、白樺派教師の活動などに関わる文献、資料の収集も行なった。 これら先行する研究の調査を通して、近年、自然と教育の関連についてなされた議論を援用しつつ、美術教育史における自然観について、具体的事例にフォーカスしながら実証的に検証を行うという次年度以降の本研究の具体的方針が定まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究の収集・整理を通して、今後の研究対象、方針について定めることができた。今後の研究方向や対象によっては継続した先行研究調査が必要であることはいうまでもないが、現状においては、概ね当初の予定通り進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、具体的な研究対象として、長野県聯合小学校教科研究会の研究録を中心的史料として、白樺派教員による自然を対象とした美術教育、具体的には写生教育論について検討を加える。大正初期に開催された本研究会は、新定画帖を中心とする教育的図画期と、自由画教育運動の中間に位置し、その中では写生教育論が白樺派教員を中心として提示されていることがこれまでに確認できている。この、長野県における美術教育潮流の具体的な転換期においてどのような議論が、いかなる思想の影響下においてなされたか、ということを検討することは、本研究において重要である。それらの史料について収集、検討を加える。 上記研究会における議論を整理し、明らかにすることが叶ったならば、その後に。本研究会を基軸として、そこに至る前史と、その後の議論の波及について検討することで、具体的な通史的理解が可能であると考えている。
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Causes of Carryover |
感染症流行による行動制限によって、予定していた調査旅行が実施できなかった。また、情報収集のために予定していた学会参加についてもオンライン開催となったため、旅費について未使用となった。 これらについては、今後の史料収集時の旅費、史料購入費、複写費として使用する。
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