2022 Fiscal Year Research-status Report
「自然を描くこと」の教育的意義の形成についての史的経緯の解明
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21K02518
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
大島 賢一 信州大学, 学術研究院教育学系, 助教 (90645615)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 写生教育 / 長野県 / 長野県内小学校聯合教科研究会 / 大正自由教育 / 臨画教育 / 図画教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治期から大正期にかけての長野県の美術教育を対象とし、自然を描く(描かせる)教育思想がどのように芽生え、どのような実践が行われてきたのかを明らかにすることで、美術教育における「自然を描くこと」の教育的意義がどのように形成されたのかということの一端を明らかにすることを目的とする。 2022年度は、上記目的に対して、1915(大正4)年に長野県師範学校にて開催された長野県内小学校聯合教科研究会図画手工研究会での議論を研究、考察の対象とした。この研究会は,教育的図画受容期と自由画教育の萌芽の間に位置付き、ここでの議論を明らかにすることは、本研究の目的を達成するための重要な手掛かりとなると考えられる。 1916(大正5)年発行の本研究会研究録には「1,図画教授の根本方針如何」「2,新定画帖の長所短所」「3,手工教授の根本方針如何」「4,手工科における工業趣味養成の方法如何」の4つの研究問題にそって会員による研究発表が掲載されている。このうち「1,図画教授の根本方針如何」に寄せられた29編を検討対象とした。これらの研究発表では、そのほとんどにおいて「写生教育」の必要性が主張され、写生教育不要論を明確に主張するものがないことを確認した。このうち特に「写生」という言葉を明確に用いている20編に加え、自由発表として発表された研究のうち写生教育に関わる2編について詳細な考察を行った。 その結果、当時長野県の教師の間で交わされた「写生教育」についての議論は、単に客観的な形態描写の訓練と理解するものから,主観的,個性的表現をさせるものとするグラデーションがあるということ。臨画教育は写生教育の予備的活動として位置付けているものが多く、したがって、その目的は写生教育の目的に応じて異なるということ。一部の発表者から明確な臨画教育の問題点の指摘と排斥の主張がなされているということが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初予定していた、長野県内小学校聯合教科研究会における写生教育論についての調査を終えることができた。それによって、1915年当時の長野県における写生教育論の普及状況を確認するとともに、その主な主張者と論点を確認することができた。これにより、次年度以降の研究対象を明確にするとともに、関連する資料の調査、収集を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査研究により、長野県内小学校聯合教科研究会が開催された1915年当時の長野県における写生教育論の普及状況と主な主張者、その理論について明確にすることが叶った。以降は、それら写生教育論者に関わりながら、そのバックグランドを含め調査検討の対象とし、長野県美術教育会における写生教育論発生状況について明らかとすることを目指す。現状においては、以下3点を中心的な探求課題とする。 1,いわゆる白樺派教師による、白樺を経由した西洋美術思想の輸入と、そこから派生する教育実践について。 2,島木赤彦を中心とした長野県におけるアララギ派の影響と、図画教育の関わりについて。 3,新定画帖受容に関わる写生教育論の扱いについて。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた学会について、対面での開催がなかったため、旅費について未使用金が発生した。これらについては、次年度、資料収集のための調査旅行に用いる。
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