2022 Fiscal Year Research-status Report
特別活動によるいじめ未然防止プログラムの開発研究-学級活動で培う人間関係の構築-
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21K02552
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
松岡 敬興 近畿大学, 工学部, 教授 (10510539)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 特別活動 / ガイダンス / いじめ / 学級活動 / 人間関係 / 自己理解・他者理解 / 共感性 / 自己開示 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自死やいじめに関わる諸問題を未然に防ぐために、積極的に教育実践を通して児童生徒への働きかけを行う。学級の全ての児童生徒が参画できるガイダンスプログラムを開発し、特別活動の学級活動の時間において教育実践に取り組む。その教育効果については、全ての児童生徒を対象に自由記述やアンケート調査を行い、個人的及び集団的な両側面から分析・検討を加える。主として小学生高学年と中学生を対象に年度単位での介入を継続し、望ましい人間関係づくりをめざした学級経営を支援する。また適宜、研究協力校の学級担任との意見交換を行い、児童生徒の実態を見据えながらプログラムの改善を図り、児童生徒間でのリレーションに関わる成長を促す。 本年度は、2年次の計画に沿い、1年次に開発したガイダンスプログラムを用いて、研究協力校の中学校において教育実践に取り組んだ。1年生及び2年生を対象に、構成的グループエンカウンターの手法を生かしながら、制作活動に描画表現を組み入れることで、生徒間において新たなコミュニケーションを促進することができた。またペア同士で、互いに制作物を提示しながら学級の仲間に向けて発表することで、学級全体で新たな気づきが共有され、自己理解・他者理解が深まり、生徒間で相手のことを受容・共感しようとする雰囲気が醸成された。その一方で、自己開示を苦手とする生徒に対しては、決して強要することなく、聞き手側の受け入れる環境の整備が重要であることが分かった。 さらに次年度の教育実践の準備として、新たな研究協力者との間で、定期的に学級経営について議論を交わし、ガイダンスプログラムの重要性とその教育効果について共通理解を図った。年間計画として意図的・計画的にプログラムを位置づけ、児童生徒一人一人の成長・発達を見据えつつ、全ての児童生徒に居場所のある学級づくりを目指して、相互間で理解し合える機会と場を保障する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実施にあたり、新型コロナウィルス感染症による影響を受けながらも、研究協力校に本ガイダンスプログラムへの理解を求め、教育実践に関わる制約を最小限に留めた。前学年度末の3月に、学校長、教頭、教務主任、学級担任を交えて、本年度の実施計画について共通理解を図った。対象学級を中学校の1学年と2学年とし、プログラムの実施はもとより、年間を通して学級経営への支援を行うことを確認した。 本年度は、計画通りに対象学級において、プログラムを対面授業として教育実践できた。構成的グループエンカウンターを生かした描画表現活動として、特別活動の学級活動の時間において、全ての生徒が参画できる場面を確保しながら、プログラムを完遂した。生徒への教育効果をみるために、自由記述とアンケート調査として①『自尊感情尺度(東京都版)』、②『教育相談のための綜合調査Σ』を用いた。 プログラムの教育効果については、アンケート調査①の質問項目「今は今の自分に満足している」、「人と違っていても自分が正しいと思うことは主張できる」、「自分のことが好きである」、「自分の行動や判断を信じることができる」において、平均値に顕著な上昇が見られた。生徒一人一人が、ペア同士でコミュニケーションを深め、それを学級の仲間に発表することで、互いに自己理解・他者理解を深めることができた。同時に、自己開示が苦手な生徒への配慮についても怠ることなく、聞き手の受け入れる環境を整備し、やり切ることで自信をもたらすことができた。 学級経営を支援するうえで、プログラムを意図的・計画的に実施し、生徒の成長・発達を見据えながら、より望ましい実施形態を改善プランとして再構築をする必要がある。より教育効果の高いガイダンスプログラムへとブラッシュアップを図るために、指導にあたる学級担任との情報交換を密に図りながら研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に関わるこれまでの成果を引き継ぎ、研究協力者(小学校1名、中学校1名)との意見交換を密に図ることで、学級の児童生徒の実態を踏まえたガイダンスプログラムへと改善を加える。複数年度に渡り研究協力者と関わるうえで、学級経営を支援する手だてとしてプログラムを位置づけ、意図的・計画的に配することで、継続的に児童生徒の変容を追跡するとともに、プログラムの教育効果についても分析・検討を行う。全ての児童生徒に居場所のある学級づくりを支援するプログラムとして、児童生徒間のリレーションづくりに着目しつつ、集団による活動を通した教育効果について、アンケート調査(教育相談のための綜合調査Σ)結果をもとに、個人的側面、学級集団としての捉えの両面から分析・検討を加える。 本取組の教育効果を他の教員に紹介することで、学級経営の重要性について再認識を図る場を設ける。生徒指導は、特定の学級で行うよりも学年全体で、そして学校全体で指導の方向性を一致させることで、より児童生徒への変容効果が期待できる。児童生徒の学校生活の実態を鑑み、教育実践については少なくとも学年単位で行うことが望ましい。また、指導にあたる教員間においては、共通した取組としてコミュニケーションを活性化するためのツールにもなる。全体研修会を設けて教員間で共通理解を図ることが最善策ではあるが、学級経営に関わるプログラムを推進するために、理解者を募るためのミニ研修会を開催する。 さらに、学級の実態を把握するために、定期的に児童生徒の様子を終日観察し、学級担任ではない第三者の目に映る実態について意見交換を図り、より望ましい人間関係づくりのための手だてを再構築する。プログラムは有効な取組の一つとして位置づけ、意図的・計画的に年間計画に配するものの、決して固定化することなく児童生徒の実態に呼応させ、フレキシブルに調整を図りながら教育実践を行う。
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Causes of Carryover |
本研究の2年次の取組では、新型コロナウィルス感染症による影響により、情報収集(先進校視察、各種研修会など)、研究協力校への訪問による生徒観察、研究協力者との意見交換や共通理解などにおいて、出張等の縮小を迫られた。 本年度は、新たに研究協力者2名(小学校、中学校)を対象に、年間を通して学級の実態を調査するとともに、ガイダンスプログラムを用いた授業実践に取り組む。児童生徒への教育効果を見取るために、アンケート調査(『教育相談のための綜合調査Σ』)を授業実践の前後はもとより、学期ごとに行うことで生徒一人一人の変容について、追跡しながら分析・検討する。 加えて先行研究に関わる論文や研究報告書、関連図書、関係資料について、定期的に国立国会図書館関西館にて調査を行い、自死やいじめ問題に関る現状把握を深めると共に、新たに未然防止をめざすガイダンスプログラムの開発に取り組む。
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