2021 Fiscal Year Research-status Report
STEAMによる教科横断とそれに資する教員養成・教員研修:理科からのアプローチ
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21K02565
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
佐藤 崇之 弘前大学, 教育学部, 准教授 (40403597)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教科教育 / 理科教育 / 教員養成 / STEAM |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は渡韓しての調査・分析が不可能であったため,教科書や書籍,韓国のウェブサイトからダウンロード可能なSTEAM実践成果報告書などの分析に焦点化して,研究を進展させた。その成果は以下のようになる。 教科書の分析では,複数冊の韓国中学校科学教科書を用い,STEAMに関連する融合人材教育の活動(多くが各単元末にある)を分析した。学習した単元と関連するものを日常生活の中から探して調べる活動,韓国の歴史や自然と科学との関連について調査する活動,社会生活における課題を解決する活動などが見られた。 書籍の分析の中で特筆すべきは,嶺南大学校の教育実習指針に関するものである。日本の教員養成大学・学部における教育実習手引きとほぼ同様の形態であったが,授業モデルを掲載しているなど,より教育実践に則した内容が見られた。 STEAM実践成果報告書の分析は,今年度の主要な成果となるものであるため,より具体的に記す。韓国で科学教育の研究開発および情報の集積・発信の中心となっているのは韓国科学創意財団であるため,その分析を行うとともに,そこで集積されているSTEAM教育の実践事例も分析し,日本の今後のSTEAM教育への示唆を得ることとした。韓国科学創意財団の分析から,多様な事業をとおして,教育施策の一環としてSTEAM教育に携わり,とりまとめていることが分かった。その実践事例は多数あり,科学の授業にも多くのものが利用できることが分かった。一例として,京仁教育大学校を中心に開発・実践が行われたものを分析すると,韓国科学創意財団が求める「状況の提示」「創意的な設計」「感性的な体験」の授業の流れに沿っていることなどが分かった。これらのことから,STEAM教育の情報共有システムの必要性,教材開発および授業開発,融合人材教育や教科横断的な単元の開発について示唆が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記したように,今年度は渡韓しての調査・分析が不可能であった。このことから,実際的な調査・分析については進んでいない。しかし,その反面で,文献調査に携わる質や量を増やしたことにより,研究の成果を獲得したと考えている。また,その文献調査から,今後の研究の推進に関する情報として,韓国の教育研究の基盤となる情報や,韓国科学創意財団などいわゆる大手の研究機関に研究対象を絞るか否かの情報が得られたことなどから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。 実際に,「研究実績の概要」のうちのSTEAM実践成果報告書の分析は,韓国科学創意財団を対象としたものである。この研究の成果をまとめて,所属先の研究紀要に論文として掲載している。その成果では日本の今後のSTEAM教育への示唆が得られたため,それをもとにしながら,本研究で購入した日本の小学校・中学校の各教科の教科書をもとにしながら,STEAM教育,文理融合型の人材育成教育に着手している。研究代表者は,理科教育を研究的背景としているため,小・中学校理科教科書における活動を中心としながら分析し,その他の教科で培われる能力をそこに導入するための分析を行っている。 以上は,STEAM教育そのものに関する研究の進捗状況であるが,本研究のもう一つの課題として教員養成・教員研修を明らかにするための分析がある。これらのうちの教員養成については,嶺南大学校や,これまでの研究代表者の研究で協力体制を整えてきた公州大学校,公州教育大学校,晋州教育大学校など,研究対象とする教員養成機関を選定できた。また,教員研修については,韓国科学創意財団が各種の研修を実施してきているため,それらの成果を分析することで,研究を進展させる方針が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針として,STEAM教材の日本の理科教育への導入と,韓国のSTEAM教育に関する教員養成・教員研修の分析を考えている。 STEAM教材の日本の理科教育への導入では,まず,韓国のSTEAM教材についてさらなる分析を行うことにより,導入可能な視点や活動を幅広く獲得する。これは,韓国科学創意財団が集積したSTEAM実践報告書の分析をさらに深めることから明らかにすることができる。また,実際的な日本の理科教育への導入については,着手している理科とその他の教科の能力の融合に立脚して,理科授業の中でそれをマッチングさせ,研究代表者の所属機関の附属小・中学校において授業実践を行うことにより,開発した教材や活動の効果を検証することを考えている。 韓国のSTEAM教育に関する教員養成・教員研修の分析のうち,教員養成に関しては,「現在までの進捗状況」に記した韓国の教員養成機関を対象とした分析を行うことにより,そのシステムや内容を明らかにする。その際には,STEAM教育に特化した教員養成科目を行っている場合はその内容,あるいは各教科教育科目の中でSTEAM教育を取り扱う場合はその内容について焦点化することにより,STEAM教育と各教科教育の関係性を教員養成の面から明らかにする。教員研修に関しては,韓国科学創意財団の分析をもとにしつつも,協力体制のある韓国の教員養成大学を介して地方の教育事務所レベルの研修を分析することで,研修の実際を明らかにしていく。 本研究を遂行する上で,特に教員養成・教員研修の分析について,渡韓の可能性が課題となる。今後,渡韓が不可能な場合には,オンラインでの調査にも着手し,初等教育段階は晋州教育大学校,中等教育段階は公州大学校を選定して,大学教員へのインタビュー,学生へのアンケートなどを行うことにより,本研究計画を代替して進展させることを考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は,外国旅費の費目としての渡韓しての調査,および国内旅費としての学会での成果報告を行うことが困難であった。また,設備備品費として予定していた外国の書籍を取り寄せることが困難な状況にあった。これらを主な要因として,当初の研究計画に不都合が生じ,次年度使用額が生じた。次年度も同様の状況になることが考えられる。しかし,その中で外国との往来や物品のやりとりが緩和されつつあり,また,国内の学会も対面での開催が予定されていることが多い現状があるため,今年度に実施できなかった研究計画については,次年度にカバーできることが多いと見込むことができる。具体的には,以下のようになる。 まず,今年度分を次年度に行うこととして研究計画を練り直す。外国との往来の緩和から早々に現地調査を行うこと,国内の学会での成果報告の数を増やして,レビューを多く受けて研究計画および成果を確認することを考えている。次に,書籍等の文献調査の数を増やして,日本と韓国の理科教育・科学教育の実態について詳細に分析する。これは,研究計画にさらなる不都合が生じた場合に,文書的エビデンスにもとづいた成果を獲得することに主眼を置くことができるようにするためである。 以上のことから,次年度使用額が生じているが,今年度の成果を活用して次年度に研究を展開できると判断している。
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Research Products
(1 results)