2022 Fiscal Year Research-status Report
STEAMによる教科横断とそれに資する教員養成・教員研修:理科からのアプローチ
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21K02565
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
佐藤 崇之 弘前大学, 教育学部, 准教授 (40403597)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教科教育 / 理科教育 / カリキュラム分析 / 授業開発 / STEAM |
Outline of Annual Research Achievements |
韓国の2015改訂『教育課程』に準拠した中学校科学教科書の生命領域に焦点化し,STEAM教育の実態を解明した。教科書出版社4社の教科書を分析対象として,特に韓国で重要視されている「教科融合」の視点から,それに関する活動を分析した。その結果,小単元末や中単元末に活動を配置したものがあり,単元の学習内容から教科等の枠組みを超えて融合させる活動を提示していた。また,「融合」に関する主な活動が大単元末ごとに1つ配置され,各単元で培った能力をまとめて他教科等とつなぐ取り扱いも見られた。そのような教科書では,単元末課題や本文中のコラムで,「融合」を意識させた課題を設定していた。韓国では,教科を融合するためにSTEAMを強調した時期から,教科融合自体をより意識した時期に移行しており,2015改訂『教育課程』においてより強く教科融合が主張されていることから,それに沿うものと考えられる。 また,小学校理科にSTEAM教育を導入した授業について考案することにより,実践的な側面からSTEAM教育について分析することとした。そこでは,単元末において行うことができる授業の考案を行った。たとえば,ゴミや水資源の問題などの社会問題である事象,速く走るための練習方法の探究など日常に関する事象を学習課題に設定し,未来をよりよくするために他者と協働し,解決策を見つけ出すものとした。一例として,第3学年「身の回りの生物」の生き物の観察で共通点・相違点を見つける学習では,生き物の特徴を生かしたロボット開発という活動を考案した。ヘビの動きから救助ロボットを開発した事例を挙げて,総合的な学習の時間における科学技術と関連させた。生物の特徴やロボットの活躍をイラストで表現することで図画工作と関連させた。このように,他教科で培った資質・能力と統合させた授業は,児童の生きる力の育成につながると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記したように,文献を取り扱った研究が中心であり,今年度も昨年度に続いて渡韓しての調査・分析を行うことができなかった。このことから,実際的・実証的な調査や分析については進んでいない。しかし,その反面で,文献調査に携わる質や量を増やしたことにより,研究の成果を獲得できていると考えている。特に,今後に成果をまとめることになるが,韓国の全国的な教員研修についてはオンラインで研修が行われているものもあり,韓国科学創意財団などのwebサイトでその概要を探ることができ,その分析にも着手している。このことから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。そのほか,「研究実績の概要」での記載以外にも研究成果となるものがあるので,具体的な状況を以下に示す。 高等学校理科(生物)において,STEAM教育や教科融合に資するものとして,日常生活の課題に関連した思考力の育成をめざした授業開発を行った。高等学校では,知識を習得する時間と思考力を育成する時間の両方を1時限の授業でバランスよく配置することが求められる。そこで,授業で取り扱った知識を活用して記述する「評価課題」を生徒に継続的に取り組ませて,生徒の思考力の育成をめざした。具体的には,授業の終わりに時間を割いて,知識を活用する記述式の評価課題に取り組ませた。評価課題は数回にわたって行い,答案をアーギュメントに即した3項目3段階のルーブリックを用いて評価し,推移を分析した。その結果,回を経るにつれてルーブリックでの評価が高まった。また,評価課題を実施していないクラスでも評価課題を実施して,継続的に評価課題を行っているクラスとルーブリックの評価を比較したところ,継続的に評価課題を行っているクラスの方が評価が高かった。このように,評価課題を継続的に行うことは,思考力の育成に有効であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針として,STEAM教材の日本の中学校理科への導入と効果の実証,小学校理科における効果の実証,韓国のSTEAM教育に関する教員養成・教員研修の分析を考えている。 まず,STEAM教材の日本の中学校理科教育への導入と効果の実証では,韓国のSTEAM教材についてさらなる分析を行うことにより,導入可能な視点や活動を幅広く獲得する。特に,22年度に分析した韓国の中学校科学教科書に掲載のSTEAM教材について,日本の理科に導入できるか否かという視点で分析し,その成果から授業開発を行って実践的に効果を実証する。次に,小学校理科における効果の実証では,22年度に授業開発を行ったものについて,実践的に効果を実証する。以上のことについては,所属先の附属中学校・小学校や,公立学校での実施を考えている。 韓国のSTEAM教育に関する教員養成・教員研修の分析では,このうちの教員研修についてはwebサイトを利用した分析に着手しているが,それを継続するとともに,実際に渡韓して情報収集を行い,現状や課題を明らかにする。教員養成に関しては,研究代表者が連携できる韓国の教員養成機関として公州大学校,晋州教育大学校,所属先と連携している釜山大学校を対象として分析を行うことにより,そのシステムや内容を明らかにする。その際には,STEAM教育に特化した教員養成科目を行っている場合はその内容,あるいは各教科教育科目の中でSTEAM教育を取り扱う場合はその内容について焦点化することにより,STEAM教育と各教科教育の関係性を教員養成の面から明らかにする。 以上のことにより,STEAM教育について日本の学校教育における実施の可能性を探索するとともに,それに関する教員養成や教員研修についても一体的に分析することにより,日本におけるSTEAM教育の展開について提言していくものとする。
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Causes of Carryover |
22年度は,外国旅費の費目としての渡韓しての調査を行うことが困難であった。それにあたり,調査に関わる設備・備品の購入も延期した。このれらを主な要因として,当初の研究計画に不都合が生じ,次年度使用額が生じた。 しかし,23年度は外国との往来や物品のやりとりが緩和されつつあり,また,国内の学会も対面での開催が基本となっていることが多くなった現状があるため,22年度に実施できなかった研究計画については,23年度にカバーできることが多いと見込むことができる。具体的には,以下のようになる。 まず,22年度分を23年度に行うこととして研究計画を練り直す。特に,外国との往来の緩和から早々に現地調査を行うことを考えており,その用務先は韓国各所の教員養成機関だけでなく,教員研修機関など多岐にわたる。また,国内の学会での成果報告の数を増やして,レビューを多く受けて研究計画および成果を確認することを考えている。さらに,22年度に継続して書籍等の文献調査を行うことにより,日本と韓国の理科教育・科学教育の実態について詳細に分析し,文書的エビデンスにもとづいた成果を獲得する。 以上のことから,次年度使用額が生じているが,22年度の成果を活用して研究を展開し,主に渡韓しての情報収集に努め,その研究計画の実施のための費用として使用予定である。
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Research Products
(4 results)