2022 Fiscal Year Research-status Report
文章理解の認知科学的研究に基づく道徳教材モデルの開発と授業実践を通じた効果検証
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21K02568
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
宮本 浩紀 茨城大学, 教育学部, 助教 (00737918)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
打越 正貴 茨城大学, 教育学研究科, 教授 (10764970)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 文章読解 / 認知科学 / 言語学 / 道徳読み物教材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主たる目的は、道徳教材モデルの開発と授業実践を通じた効果検証を行うことにある。研究開始以来、その切り口として設定してきたのは、子どもによる文章読解の過程を認知科学の知見に照らし合わせて解明するというものであった。 「特別の教科 道徳」(及びその前身にあたる「道徳の時間」)の主たる教育方法として読み物教材が活用されてきたことは周知の通りであるが、子どもが文章の読解と道徳的価値の理解の双方をどのような原理で行うかに関して関連させた検討が十分に行われてきたとは言い難い状況が認められる。 そのような状況が何ゆえに引き起こされているのか探るために、2022(令和4)年度も引き続き、言語学・記号論・認知科学における文章読解過程に関する先行研究の整理を行うこととした。そのような文章読解に関する理論的基盤の構築なしに、実際の学校現場での活用に資する手立ての考案に結びつかないと考えたからである。 具体的に注目したのは、文章内容と子どもの距離をいかにして縮めるかであった。その結果として、発達の観点から言語研究に携わってきた今井むつみ氏の文献、神経心理学の立場から人間の認知の仕組みを研究してきた山鳥重氏の文献を中心にして、「知識」と「経験」という二つのキーワードのはたらきについて改めて確認することができた。要するに、子どもが文章内容の読解につまずいてしまうのは、文章に取り上げられた語句を子どもが知識として活用できていないこと、頭では内容がわかっていても、自らの経験との重なりが見えないために「本当にわかった」ことにならないこと、以上二点があるのである。研究の結果、前者に関しては「知識の網の目」ないしは「知識のネットワーク」の形成の重要性が、後者に関しては授業時に子どもの実体験を引き出すことの重要性が確認された。以上は、子どもの文章読解過程の把握における理論的基盤を構築することに結びついた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画を立てた時点において、2022(令和4)年度には、①有名道徳教材を中心とした教材の構造分析、②道徳授業における教材活用場面の観察、③道徳教材モデルの開発の三点を中心に取り組むことを想定していた。 ①については、小学3・4年生道徳読み物教材である「ヒキガエルとロバ」「くずれ落ちた段ボール箱」及び中学生道徳読み物教材である「絶やしてはならないー緒方洪庵ー」「加山さんの願い」を中心に、同教材においていかなる道徳的価値観を教えることができるか、あるいはそのためにいかなる語句・表現が用いられているかについて検討を行うことができた。その過程で、子どもたちが当該文章を読解する過程でつまずきやすいポイントについて見出すことができたものの、文部科学省の作成している『学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』に示された「内容項目の指導の観点」の記載内容からすると、検討できた道徳的価値観が限定的であったという課題が認められる。 さらに②についても、新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、当初授業参観を予定していた小学校との間で調整をつけることが叶わず、①において分析対象とした教材を用いた授業の参観をすることができなかった。 以上①と②におけるつまずきの結果として、③の進捗に支障が生じてしまった。先ほど【研究実績の概要】において、2021(令和3)年度に引き続いて、2022(令和4)年度も文章読解過程に関する認知科学的研究に注力したと記した背景は、上記のように①~③の進捗に支障が出そうなことが年度途中に見出されたことに起因している。結果的に、認知科学及び認知言語学の主要論者の文献を参照することができたことにより、道徳教材モデルの理論的基盤を整序することができたのは不幸中の幸いであったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現段階において、当初の予定では2022(令和4)年度末時点で完了している予定であった、①有名道徳教材を中心とした教材の構造分析、②道徳授業における教材活用場面の観察、③道徳教材モデルの開発に、これから取り組むことが求められている。それに加えて、予定では④自作教材の作成/検証を行う必要のあることを加味した時、残念ながら、研究計画にいくぶん変更を加えざるを得ない状況にあると言える。 具体的に変更を検討しているのは④である。当初は自作教材の「作成」と「検証」の双方を行う予定であったが、現状取り得る最良の手段として、次のようなものを想定している。まず前者の「作成」については、場面の設定や登場人物の選定を含めて、すべて一から道徳読み物教材を作成する形ではなく、すでに存在する道徳読み物教材を分析対象として、そこに用いられた語句や内容のいかなる点が数十年来学校現場で活用される教材としての位置を保ってきたかについて検討することを目指す。他方、後者の「検証」については、茨城県内の小・中学校に勤務する先生方に協力を仰ぎながら、有名教材を用いた授業実践のポイントないしはその授業を行う上での難しさに焦点を定めた検討の場をもつことを計画している。 以上のような代替となる研究実践を行うことによっても、結局のところ、子どもの文章読解過程に関する認知科学的研究から得られた知見が役に立つのは言うまでもない。また、研究計画が当初の想定通りには進まなかったことに起因して、自作の道徳読み物教材を通じた授業実践及びその参観は断念せざるを得ない状況にあるが、先生方に協力を仰ぐことにより、公立の小・中学校における特別の教科 道徳の授業参観を行えるよう調整中である。すでに、まず茨城県神栖市内の小学校の先生と具体的な候補日を相談するなど、研究計画の変更によって当初目論んだ成果の獲得に支障がないよう取り組んでいる次第である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大により、当初予定していた研究協力校との共同研究(有名道徳読み物教材を活用した授業の参観)を行うことが出来なかったため。未使用額については、令和5年度に実施する研究協力校への出張旅費として使用する計画である。
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