2022 Fiscal Year Research-status Report
日仏の予防キャリア問題教育における教科間連携の動向分析とカリキュラム開発
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21K02597
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
上里 京子 群馬大学, 教育学部, 教授 (80202448)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 予防キャリア問題教育 / カリキュラム構成 / カリキュラム開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日仏の予防キャリア問題教育に関する教科間の連携動向を分析し、カリキュラム開発を行うことを目的としている。今年度は、フランスの予防キャリア問題教育の中心である「予防・健康・環境(PSE)」科のカリキュラム構造と、他教科との関連に関する記述内容等を分析した。 PSEの教科内容は、A自己の健康資本に責任を持つ個人、B自己の環境で責任ある行動を取る個人、C職場環境での予防を担う個人、の3大テーマを軸にしたモジュールで構成されている。予防キャリア問題教育に関する内容は、主にテーマCに位置付けられており、モジュールC1:「労働の保健衛生と安全」という課題、2:職業リスク予防の基礎知識、3:予防の担い手、4:職場での支援と救助、5:職業リスク分析、6:専門分野に固有のリスクの分析、7:労働衛生の管理、8:労働災害及び業務上疾病の申請と補償、9:心理社会的リスク、10:身体活動に起因するリスク、11:作業場面の分析、12:職場における処遇の平等、の12単元から構成されている。各モジュールは、「学習目標」と「関連する重要な概念」「活動・学習媒体」を三位一体で提示するマトリクスとなっており、その上部には、コレージュの生命と地球の科学、テクノロジー、物理・化学、道徳・公民、体育ですでに取り上げた概念が明記され、その理由を“生徒がすでに知っていることを新たな概念の習得に役立てられるようにするためである”、としている。 以上の分析結果から、PSEの各モジュールでは、垂直的な既習概念等を活用しながら、水平的な教科横断型の総合学習を深めることが企図されており、演繹的な学習と実習や企業研修等での帰納的な学習を結び付け、それらを往還しながら課題解決と予防を図ることに総合できる螺旋的なカリキュラムが創られている点は、日本のキャリア教育カリキュラムの再構築にとって重要な示唆であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は主にPSEの最新のプログラムにおけるカリキュラム構造と、他教科との関連に関する記述内容等を分析することができた。予防キャリア問題教育に関する内容は、12のモジュールから成り、「学習目標」と「関連する重要な概念」「活動・学習媒体」を三位一体で示すマトリクスとなっている。このモジュールの中から、職業リスク予防の基礎知識を単元内容とするC2を概観すると、①マトリクス表の上部に、コレージュで取り上げた概念を復習し、「テクノロジー」で、各種のリスクを意識して、その原因及び自然と人間に対する影響を分析する。「物理・化学」で、自身と他者の安全 (リスク及びリスク管理)、「体育」で、リスクを評価し、無理をしないことを学ぶことが明示されている。すなわち、既習概念を確認しながら、教科を横断し、テクノロジーや物理・化学、体育での学びと関連付け、それらを総合して課題解決を追求することが推奨され、教育課程を垂直かつ水平に関連づけている。②表の左の欄には、「学習目標」が具体的に示され(例:実習現場のワークステーションでの作業中に守るべき安全上の注意について説明する)、中央の欄には、「関連する重要な概念」(例:指示/情報)、右の欄には「活動・学習媒体」(例:職業教育の教師との連携による合同授業で、実習現場、ラボ、作業場といった就労の現場に適用されている安全上の注意を取り上げる)が示されている。③表の最下部には、再度教育課程を垂直的・水平的に関連付けることが指示されている(例:各課程の専攻や職種に特化した職業教育とつなげる)。 このPSEのプログラムに示されているように、予防キャリア問題教育に関わる教科と教科課程は多く存在しているが、2020年1月以降は新型コロナウイルス対策のため、国外での資料調査や研究者へのインタビュー調査等ができない状況が続いたことにより、やや遅れている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の方法論に基づき、職業リセの教養教育科目「予防・健康・環境」科を中心として、初等教育の「世界の探求(Questionner le monde)」科、コレージュの「技術 (Technologie)」科における予防キャリア問題教育に関する内容との関係性について、最新プログラムと教科書の分析を通して明らかにする。さらに、キャリア問題は、生き方モデルとしての親の教育力の低下問題の影響が大きいことから、親準備教育としての「ライフキャリア教育」に対応した「公民科」や、2015年にフランスの教育課程に新設された「モラル教育」等との教科間連携の構造と内容を分析する。 本研究の推進方策として、教育内容における科学的概念と、子どもの生活概念を関連づける方法論に焦点を当てて分析することにより、日本の小・中・高等学校の家庭科教育における予防キャリア問題教育のカリキュラムの構造化に有効な示唆を得ることができると考える。 また、フランスの予防キャリア問題教育に関わる各教科においては、教育課程を貫く「科学」に基礎をおいた科学教育という基本理念のもと、フランス独自の科学の認識論による概念によってカリキュラム開発が進められていることが推察できるが、この点を踏まえて比較分析することで、日本の家庭科教育を中心とした予防キャリア問題教育における独自の科学的概念を「市民生活リテラシー」として構築し、それを基軸としたカリキュラム開発を推進できると考えている。
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Causes of Carryover |
(理由)フランス現地での資料調査や研究者へのインタビュー調査等については、2020年1月以降、新型コロナウイルス対策のため、渡航が不可能となり、次年度使用額が生じた。 (使用計画)新型コロナウイルスが終息に向かい、2023年度に、外国出張が自由にできるようになった暁には、フランスや国際学会開催国への渡航を計画し、資料調査及び情報収集等を行う予定である。
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