2021 Fiscal Year Research-status Report
わが国の大学教員に適用される年俸制の効果-業績連動報酬の目指すものー
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21K02662
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
天野 智水 琉球大学, グローバル教育支援機構, 准教授 (90346940)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 大学教員給与 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は業績評価結果を教員給与へ反映させる年俸制が導入された国立大学およびその教員を主たる対象とした調査分析により,年俸制導入から何を期待できるのかを明らかにした上で,給与面を中心とした効果的な大学教員の人事管理・マネジメントに資する含意を得ることを目的とする. 本年度計画は各国立大学が導入した新年俸制度の実態を明らかにすることであったが,これに先立ち国の政策動向を整理した.この制度導入の背景の1つには政府の科学技術イノベーション政策があり,具体的には「科学技術イノベーション総合戦略」(2013.6.7.閣議決定)は「国内外の優秀な人材の登用を進めるため」とし,「総合イノベーション戦略」(2018.6.15閣議決定)でも「若手の活躍促進と人材流動性の向上を図る」ためと説明している.けれども,年俸制が人材流動性に寄与するという仕組みは不明で,「総合イノベーション戦略2021」(2021.6.18.閣議決定)では依然として若手ポスト確保策としての年俸制への言及があるが一言程度にすぎず,その存在感は随分と後退している印象だった.一方,文部科学省が作成した「国立大学法人等人事給与マネジメント改革に関するガイドライン」(2019.2.25.)は「業績評価の処遇への適切な反映が年俸制導入の重要な目的である」としており,業績連動給与の一般的な目的と変わりはなかった. 次に,事例として選んだ1つの国立大学給与担当部署を実地に訪問し,聞き取り調査を行った.主たるは月給制と比べた場合のメリハリの付け方で,勤勉手当の成績率に高低差を大きく設けるだけではなく,休職や懲戒処分がなくても業績が低いと判断されれば標準よりも低い成績率となるという厳しいものであることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では全国立大学を対象に,Web上等で公開された年俸制度に関する資料の収集分析を行い,また事例として選定した50大学を対象としたシンプルな質問紙による問い合わせを通じて,その制度実態を明らかにすることとしていた.けれども,公開資料からだけでは質問紙を作成する上で必要な共通の枠組・項目を作成するに足りるほどの情報を把握することは困難であることが判明した. そのため,上記調査活動と並行して実施する予定であった,実地に事例大学を複数校訪問して行う聞き取り調査を,質問紙調査以前に想定以上に進捗させる必要が生じた.ところが,コロナ禍により十分な数の訪問調査を実施することができず,計画には遅れが生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
コロナの感染状況が落ち着きを取り戻しているので,訪問聞き取り調査を早々に実施する.調査実績をある程度重ねることができれば,遠隔会議システムを用いた聞き取り調査も可能となるかもしれない.この成果を踏まえた機関対象の質問紙調査を実施する. また,上記機関対象調査とは別に,教員を対象とした質問紙調査を当初より計画している.具体的には,全ての国立大学に,年俸制を導入している若干の私立大学を加えたおよそ50の大学から150程度の部局を抽出し,これに所属する教員各40人,計6,000人程度に業績連動型給与をどう認識しているか,そして動機や業績はどのように変容しているか等を尋ねる.この際,調査・回答フォームはWeb上に準備し,IDを配布することで回答者を制御するとともに,所属大学および部局が判明できるようにする. 最終年度は以上から作成したデータセットを分析し,研究成果の発表に着手する.
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Causes of Carryover |
事例として選定した複数大学を実地に訪問し聞き取り調査を行う計画であったが,コロナ流行拡大によりほとんど実施できず,また,この調査を踏まえて実施する必要があった機関対象の質問紙調査も実施できなかったため次年度使用額が生じた. 今後は訪問聞き取り調査および機関対象質問紙調査にかかる経費を早々に使用する.さらに,およそ50の大学から150程度の部局を抽出し,これに所属する教員各40人,計6,000人程度を対象とした質問紙調査にかかる経費を使用する.実際には調査・回答フォームをWeb上に準備しIDを配布するため,調査支援サービス業者に発注する.
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