2021 Fiscal Year Research-status Report
義務就学制実施後の聴覚障害教育の目的論・方法論の変遷における専門的基盤の問い直し
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21K02713
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Research Institution | Bunkyo University |
Principal Investigator |
佐々木 順二 文教大学, 教育学部, 教授 (20375447)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 義務就学制 / 専門的基盤 / 教育の目的 / 言語指導 / 教育的人間関係 / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.研究環境の整備:第一に、義務就学制以前に刊行されていた雑誌『聾唖教育』(大正14年10月創刊)及び雑誌『口話式聾教育』(大正14年2月創刊)の系統的収集をおこなった。これらの文献は、義務就学制実施後の聴覚障害教育の目的論、方法論の前提条件、並びに、義務就学制実施前と後との連続性の分析に必要となる。 なお、この文献収集の過程で、次のような分析視点を得た。すなわち、教育的人間関係の分析では、①教師が児童生徒に抱いた育成像、②教師の聾者の心理や手話に対する認識、③教師の児童生徒との関係への認識(「師弟同行」「協働的行証」等の言葉等で示される)に着目することである。また、言語指導論の分析では、昭和15年頃に行われた「生活の言語化」と「言語の生活化」の論争を、戦前期までの到達点として、また、戦後期の議論の起点としてみることである。 第二に、近年の聴覚障害教育の理論、方法、歴史等に関する海外の研究成果の収集をおこなった。この作業を継続し、聴覚障害教育の目的論、方法論の変遷に関する系統的レビューを行うことで、本研究の意義を一層明確にできると考える。 2.研究倫理に関する検討:本研究では、聾学校アーカイブズに所蔵される未公刊の資料の分析、聾学校の旧職員及び現役職員、卒業生への聞き取り調査に基づくライフヒストリー分析を行うことから、先行研究の知見に基づき、「歴史研究における個人情報保護と個人の視座のもつ可能性―障害者教育・福祉史分野から―」と題する論文を執筆した(『社会事業史学会50周年記念論文集』[2022年10月刊行予定]に掲載決定)。また、学内における研究倫理審査を受けるための準備をおこなった。 3.研究協力依頼:2022年度以降の本格的な史資料収集に備え、研究協力依頼を予定している聾学校を訪問し、史資料の所蔵状況の調査、今後の研究に関する相談をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度予定していた研究環境の整備を行うことができた。また、歴史研究における研究倫理に関する問題の検討を行い、その検討内容を論文にまとめることができた。さらに、研究実施に向けた研究協力依頼先との協議をおこなうことができた。 研究倫理審査については、所属機関の研究倫理審査委員会で「承認」と判断され、研究協力機関及び研究協力者への正式な依頼をする準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.本格的な文献調査及び聞き取り調査への着手:東京都内及び周辺にある聾学校アーカイブズ及び地方の聾学校アーカイブズ(熊本県を予定)での文献調査、並びに当該地域をフィールドとした聞き取り調査のための正式な研究協力依頼をおこなう。 文献調査では、アーカイブズに所蔵される学校資料の収集を行い、聞き取り調査では、当該地域をフィールドとして聾学校の旧職員及び現役職員(40歳代-80歳代。10名程度)、並びに卒業生(40歳代-80歳代。10名程度)への聞き取り調査をおこなう。聞き取り調査への協力者を募る際は、聾学校同窓会、聴覚障害者の当事者団体からの協力を得る。なお、卒業生への聞き取り調査は、対象者のコミュニケーション方法の志向に応じて、手話通訳者を依頼し、十分な意思疎通が図れるようにする。文献調査及び聞き取り調査により、教師と卒業生の双方の視座から、教育の目的論の変遷、教育の方法論とその継承、教育的人間関係の変遷について明らかにする。その際、調査協力者のライフヒストリーを構成し、それを聴覚障害教育の時間的変遷の中に位置づける作業をおこなう。 2.義務就学制実施後の聴覚障害教育の目的論・方法論の変遷に関する文献的検討:入手済みの文献資料に基づき、義務就学制実施後の教育の目的論、方法論の変遷の分析をおこない、学術雑誌への投稿をおこなう。 3.研究倫理に配慮した研究の遂行:文献調査及び聞き取り調査のあらゆるプロセスは、研究倫理審査申請書に記載した個人情報保護、研究協力者に対する不利益の回避のための措置をとりながら進める。具体的には、研究への協力が研究協力者の不利益ならないよう、研究の趣旨と方法を十分に説明し、同意を得てから調査を行うこと、研究成果の発表において匿名化により研究協力者のプライバシーを保護することである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由の第一は、当初予定していた、第23回国際聾教育会議(オーストラリア・ブリスベン、2021年7月)を、新型コロナウイルス感染拡大及びそれに伴う公私の事情により、取りやめたことである。これにより外国旅費を支出しなかった。理由の第二は、やはり新型コロナウイルス感染拡大とも関わって、ILL(図書館相互利用)を用いた文献収集に力を入れたため、聾学校アーカイブズを直接訪問しての研究協力依頼や史資料調査の機会が一回に留まった。これにより、国内旅費の支出も少なかったことである。第三は、設備備品として購入予定であったパソコン、レーザープリンター等の物品の購入を見合わせたことである。 2022年度は、第一に、研究協力者及び研究協力機関への依頼と調査の実施にかかる国内旅費、聞き取り調査にかかる謝金に支出する。第二に、設備備品費として、聴覚障害教育関係和図書・洋図書の他、2021年度未購入だった機器を購入する。第三に、文献資料の電子化作業等、時間のかかる作業を短期雇用によって効率化を図る。
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