2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K02724
|
Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
正井 隆晶 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (80880632)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松山 沙樹 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 研究員 (00898413)
山本 利和 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (20200826)
廣瀬 浩二郎 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 准教授 (20342644)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 視覚障害児者 / 絵画鑑賞 / 触図 / 視覚障害特別支援学校 / 美術館 / 実態調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は研究計画通り、視覚障害児者の絵画鑑賞における触図の使用状況および各種遠近法の触図への翻案における工夫や課題の把握を目的に、視覚障害特別支援学校67校と国内の美術館(一部博物館含む)392館を対象として、美術の授業または美術館でのワークショップ等における絵画鑑賞の実施状況、対象作品、触図の使用の有無、各種遠近法の触図への翻案の工夫と課題等についての実態調査を実施した。調査票は2021(令和3)年4月~10月に作成し10月末に送付し、11月~12月に回収した。なお、調査票の作成および送付にあたっては、大阪教育大学倫理審査委員会の審査を経た。 視覚障害特別支援学校67校への調査では、有効回答校数は54校で学校回収率80.5%であった。小学部・中学部・高等部等で分けて回答を得たが、延べ回答人数は102名で総回答件数121件であった。回答からは、視覚障害者用に配慮された鑑賞教材が見当たらないといった教材の不足の実態と、オリジナルの触図の作成においては、「デフォルメの程度」と「遠近や重なりの表現の難しさ」等が挙げられており、絵画を触図に翻案する際のデフォルメの程度とそのガイドラインの必要性と遠近や重なりの表現に対する翻案の手立ての必要性が示唆された。美術館392館への調査では175館の回答が得られ、回収率44.6%であった。回答からは150館で触図を所持していない実態が示される一方で、所持している19館における触図の詳細を得ることができた。なお調査結果は、特殊教育学会第60回大会および2022年度全国美術館会議の教育普及部会にてポスター発表・シンポジウム、口頭発表にて広く公表・発信する予定である。 調査を元にした先進的な取り組みの学校や美術館へ出向いてのヒアリング調査は、コロナ感染拡大の影響で2021年度には実施することができなかったため2022年度に実施予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、計画していた実態調査は実施することができた。調査を元にした先進的な取り組みの学校や美術館へ出向いてのヒアリング調査は、コロナ感染拡大の影響で実施することができなかったが、2022年度には実施していく予定である。 また、遠近法の中から数種類を選定し、媒介学習プログラムの内容・方法および媒介学習プログラムに合致した触図の検討については、線遠近法(透視図法)、大小遠近法(小さい人物は奥、大きい人物は手前など)、重畳遠近法(事物同士の重なり:前の事物によって遮られている事物が奥)の3つの遠近法を選定し、触図への翻案方法の検討と媒介学習プログラムの方法について検討を進めることができている。具体的には、線遠近法(透視図法)と大小遠近法については、視覚的な状態を触覚的にも捉えることができる3Dモデルの検討を進めており、また、重畳遠近法については、立体コピーにおける1枚の触図への翻案ではなく、各事物をパーツとして独立させて翻案し、重なりを実感しながら干渉する方法を検討している。更に、媒介学習の方法としては、例えば、独立したパーツでの翻案の教材を使用する場合は、独立したパーツの場所や輪郭線を示したレイヤーを間に挟むことによって、フォイヤーシュタインの提唱する「指導者は全てを疑問形で学習者に発問し、問いかけ、学習者はヒントを得ながら考えることによって認知構造に変容をもたらす」媒介学習のあり方について検討を進められている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、実態調査については、得られた結果を特殊教育学会第60回大会および2022年度全国美術館会議の教育普及部会にてポスター発表・シンポジウム、口頭発表にて広く公表・発信する予定である。特にシンポジウムでは、参加者からも現在検討している絵画の遠近法の触図への翻案等について提案するとともに、参加者から寄せられる多くの意見やアイデアを研究に反映していきたい。 媒介学習プログラムの検討および、各種遠近法の触図翻案への課題については、線遠近法(透視図法)と大小遠近法については、視覚的な状態を触覚的にも捉えることができる3Dモデル開発を通して検討を更に進めていく。現在、大阪教育大学の技術家庭科コースの教員および学生と共同で作成を進めており、検討を継続していく予定である。また、重畳遠近法については、大阪教育大学の美術家の教員の協力を得て、立体コピーにおける1枚の触図への翻案と各事物をパーツとして独立させて翻案し、重なりを実感しながら干渉する方法の実証実験を、中途視覚障害者を想定して、アイマスクを着用した晴眼学生を対象として実施予定である。更に、先天視覚障害児者を対象としては、視覚障害児者を対象としたアートキャンプの場を借りて、実証実験を行う予定である。これらの実証実験の場を通して、媒介学習プログラム全体についても、その内容と方法の検討を進めていく。
|
Causes of Carryover |
予算の次年度使用額が生じた理由としては、旅費面では、実態調査を元にした先進的な取り組みの学校や美術館へ出向いてのヒアリング調査が、コロナ感染拡大の影響で2021年度には実施することができなかったことに加えて、研究分担者会議の実施も当初は対面での実施を予定していたが、コロナ感染拡大の影響で、すべてがオンラインでの実施となった事が挙げられる。 また、触図の翻案方略の検討等媒介学習の検討においては、当初は触図への翻案において、テクスチャーの翻案も副次的な課題としており、そのための点図を印刷できるプリンターの購入を予定していたが、媒介学習の検討において3Dモデルの作成の必要性が検討されたため、購入を見送った。今後の研究の検討状況に合わせて、点図プリンターの導入もしくは3Dプリンターやその材料費として使用するかを検討していくこととなったため、予算の次年度使用額が生じた。
|