2022 Fiscal Year Research-status Report
Development and practice of educational programs to learn about "Mirage", according to the developmental stages of children
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21K02766
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
大木 淳一 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (90280750)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 蜃気楼 / 総合的な学習の時間 / ICT教育 / 身近な自然現象 / 理科教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の研究によって、九十九里地域が日本を代表する珍しい蜃気楼(上位蜃気楼)の観測地であることが明らかになってきた。この地域の魅力である蜃気楼をこども園、小学校、中学校において授業へ取り入れることで、身近にダイナミックな自然現象が起きていることに興味を抱く教育プログラム開発を、令和4年度は観測地である九十九里町のこども園と小学校を対象に実施した。 その結果、こども園では5才児クラス対象に実施し、身近な蜃気楼として「逃げ水」を観察することで、自宅へ帰っても保護者へ話すほど印象的な現象として位置づけることができた。さらに水道水と食塩水の密度差で光が屈折する性質を活用した水槽実験で蜃気楼を再現することで、丸いと思っていた太陽が変形することも理解でき、身近な自然への関心が高まった。 小学校では第6学年を対象に総合的な学習の時間を活用して、1年間、長期的に取り組むこととした。その結果、珍しい蜃気楼を観測できなかったものの、身近な蜃気楼を道路と海岸で観測でき、貴重な体験学習を専門家である申請者と実施できた。また、年度末には蜃気楼について1年間かけて調べたことを、テーマ毎に班分けし、九十九里町内の他の小学校2校とTeamsを通して紹介し地域の魅力を情報発信することができた。 また、気象観測装置を活用した上位蜃気楼発生時の気象条件を解明するべく、冬季の気象観測を行った結果、地上3mと15mで約1度から4度ほど地上15mの方が気温が高いと上位蜃気楼を観測できることが明らかになってきた。さらに夏季に見られる大規模な上位蜃気楼が観察できた際は、気象観測装置では温度の逆転層が捉えられないことから、さらに上空の温度構造を調べる必要があるなどの課題を見つけることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
こども園、小学校で蜃気楼に関わる授業を令和4年度は実施することができた。こども園は昨年度の反省を受け、①逃げ水を野外で観察するプログラムと②液体の密度差を活用して変形太陽などの蜃気楼を再現する水槽実験の2日間に授業を分けて実施した。その結果、それぞれじっくり取り組むことができ、自宅へ帰ってからも保護者へ話す園児が多かった。ただし、逃げ水を観察する際に望遠鏡の扱いに不慣れな園児が多かったので、その手当てを講ずる必要がある問題点も浮き彫りとなった。 小学校においては第6学年の総合的な学習の時間において、年間70時間のうち29時間を活用して蜃気楼について学習した。昨年度は申請者がかなり携わって授業をサポートしたが、今年度は担任主導で動くよう、7時間だけの参加とし、専門家が関わる日数を減らしつつ、学習効果が高まるプログラムやスケジュールを立てることができた。中学校においては学習指導要領との兼ね合いで、事前学習と専門家が関わる2時間を実施するのが限界であることを昨年度、理科担当の教諭から伺うことができた。その中でどうすると教育効果が高まるか、ICTの活用を再度見直しながらプログラムをブラッシュアップする必要が見いだせた。 上位蜃気楼の発生メカニズムについて、夜間を中心に観測できる冬季については、地上15m以下の温度構造の逆転現象を気象観測装置から読み取ることができた。しかし、夏季に見られる大規模な上位蜃気楼が観察できた際は、気象観測装置では温度の逆転層が捉えられないことから、さらに上空の温度構造を調べる必要があるなどの課題を見つけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もこども園、小学校おいて授業を実施し、各発達段階における学習プログラムのブラッシュアップを目指す。特に、こども園では望遠鏡の使い方が課題になったので、予めツバメの巣を望遠鏡で観察するなど、園児が楽しく観察できる対象を通して道具の使い方を学べるように実施したい。また、小学校では一人一台タブレット端末が配付されているため、ICT教育による学習の向上を目指す。さらに、今までの成果から、専門家が立ち会わなくても教師が授業で使える映像資料の制作、学習指導案を作成し、インターネットなどで公開する必要がある。 映像資料については今後も全国の上位蜃気楼観測地に赴き、映像を記録し教材化に向けた資料を収集する。 さらに気象観測装置を設置したことで、年間を通した上位蜃気楼発生時の垂直方向の温度構造を解明できる可能性が高まった。この成果を授業に取り入れるプログラムを模索し、蜃気楼発生予報など、地域から世界へ情報発信できるようなユニークな活動へ繋がる仕掛けを考える必要がある。
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Causes of Carryover |
今年度は引き続きコロナ禍であったため感染拡大防止の都合上、蜃気楼の映像記録を目的とする野外調査(北海道石狩湾や琵琶湖など)を予定通り実施できなかった。そのため、次年度使用額が生じた。次年度は北海道石狩湾や琵琶湖、北海道釧路湿原だけでなく、富山県魚津市に蜃気楼発生確率が40%を超える高確率の日に何回かに分けて出張し、上位蜃気楼の映像を記録する予定である。
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