2022 Fiscal Year Research-status Report
役割取得能力を育成するプログラミング教育の教材と指導法の開発
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21K02819
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Research Institution | Chugoku Gakuen University |
Principal Investigator |
佐々木 弘記 中国学園大学, 公私立大学の部局等, 教授(移行) (50170692)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 役割取得 / プログラミング教育 / ロボット / 視点転換 / 幼児教育 / 小学校教育 / 道徳教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,幼児や児童が人型ロボットに物理レベルでの視点転換をして動作させたり,社会レベルでの視点転換をして人型ロボットの感情,思考を推論してロボットを動作させたりする学習活動を行うロボットプログラミング教材と指導法を開発し,幼児教育や小学校教育での試行実践を通して,開発した教材と指導法が役割取得能力の発達に有効かどうか検証することが目的である。 当初,順序性のある3つの段階から成る幼児・小学校教育における学習活動を計画した。第1段階では,ロボットへの物理レベルの視点転換能力を培う学習活動を行う。第2段階では他者の感情や思考を推論する社会レベルの視点転換能力を獲得する学習活動を行う。第3段階として,ロボットが問題状況に直面する場面を設定し,状況を客観視しながら役割取得能力の発達段階を高次に上げていくことをねらいとした学習活動を行う。 3年間の研究計画の1年目(令和3年度)には,第1段階として,プログラミングカーを用いて,幼児(5歳児)を対象に試行実践したところ,幼児には物理レベルの視点移動を促すのが困難なことが示唆された。そこで,第1段階と第2段階の順序性について検討することとした。 2年目(令和4年度)には,まず,幼児の物理レベルの視点転換能力と社会レベルでのそれとの関係に関する調査を行った。その結果,両者には相関関係がないことが分かり,それぞれ独立して発達して行くことが示唆された。第1段階と第2段階の順序を考慮する必要がなくなったので,2つのレベルの視点転換を促す活動を合わせて取り入れた教材・指導法を開発した。具体的には,人型ロボットからの見え方を考える活動場面と人型ロボットが問題事象に遭遇した時の反応をフローチャートを用いて考える場面を取り入れた学習活動である。小学校3,4年生を対象として授業を試行した結果,物理レベルでの視点転換に一定の効果があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間の研究計画の1年目(令和3年度)には,第1段階の学習活動を小学校で試行実践する予定であったが,新型コロナウィルス感染症感染拡大に伴い,小学校での実践がはばかられたため,本学の附属園である認定こども園において幼児を対象に実施した。その結果,幼児には物理レベルの視点転換を促すのが困難なことが明らかになった。 2年目(令和4年度)には,まず,物理レベルの視点転換能力と社会レベルでのそれとの関係に関する調査を計画した。この調査も幼児だけでなく小学生も対象として実施したいところであったが,コロナ感染症を考慮し小学校へ出向いての調査は控えた。令和4年度の半ばになると,小学校も徐々に平常の授業に戻りつつあったので,2つの小学校に試行実践を依頼した。数時間からなるプログラミング教育の授業を計画したが,小学校の事情もあり,2時間の授業を連続で実施することとなった。A小学校の4年生(1クラス11名),B小学校の3年生(2クラス62名)を対象として実施した。2時間の授業の中に,プログラミングの基本である3つの処理「順次」「分岐」「繰り返し」の学習に加えて2つのレベルの視点転換を促す活動を取り入れたため,やや盛りだくさんな指導内容となった。授業の前後で,2つのレベルの視点転換の能力の変容を正確に測定するため多様な質問紙を用いたかったが,授業時間の関係でやむをえず最小限に絞った。 現在までに,ロボットプログラミングの教材・指導法や質問紙の開発は計画通りに進めることができたが,コロナ感染症により小学校での試行実践や調査が計画通り実施できなかった。しかし,令和3年度は,第1段階の学習活動を小学校での代替として附属の認定こども園で試行実践することができた。また,令和4年度は第1,2段階の学習活動を合わせた形式で小学校2校で試行実践ができた。以上のことから「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間の研究計画の最終年度(令和5年度)は,主に次の3点について研究を進める予定である。 (1)役割取得能力を高次のレベルへと発達を促す教材・指導法の開発 第3段階の学習活動では,役割取得能力のレベル2(三人称的役割取得)を目指すが,そのためには,第三者への視点転換を促す学習活動を組織する必要がある。第三者への視点転換を促すには,仮想空間で自分と相手のアバターを作成し,一人称的に自分のアバターで行動や発言をした後に,第三者の視点へ転換し,自分や相手の行動や発言,相互作用を三人称的な視点で観察する学習活動が有効であると考える。レベル2の年齢は12~14歳と言われており,小学校高学年や中学生向けの教材・指導法を開発することとなる。 (2)ロボットプログラミング教材・指導法の改善と試行実践 令和4年度の小学校3,4年生を対象とした試行実践では,開発した教材・指導法が社会レベルの視点転換に有効なことを実証していないので,その向上に重点を置いた教材・指導法に改善する。また,授業に指導内容を盛り込みすぎた反省から,必要な内容を精選したり,質問紙を短時間でかつ信頼性のある結果が得られるように改善したりする必要がある。試行実践に当たっては,協力関係がある岡山市,井原市,小田郡矢掛町の小学校に依頼するが,できれば複数日にわたり4時間程度で,かつ,まだ実践ができていない低学年,高学年で授業を試行実践させてもらえるよう依頼する。ただし,今後のコロナ感染症の状況による。 (3)Webページやひらめき☆ときめきサイエンスでの研究成果の公開 Webページに開発した教材・指導法を掲載し,活用を呼び掛ける。必要に応じてロボホン等の教材の貸し出しも行う。また,研究成果公開促進事業に採択されたので,ひらめき☆ときめきサイエンスでの小学生,中学生,高校生向けの3回の講座の実施を通して研究成果を広く公開する。
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Causes of Carryover |
(1)次年度使用額が生じた理由 令和4年度についてはほぼ当初計画通り予算を執行するとともに,初年度(令和3年度)から繰り越した物品費の一部を用いて機器を購入した。ただし,英文校閲・翻訳のための人件費については,優れた翻訳機能を持つソフトウェアであるDeepLを購入して翻訳を行ったため執行していない。従って,次年度使用額は初年度(令和3年度)から繰り越しの執行残によるものがほとんどを占めている。 (2)使用計画 第3段階の学習活動で,役割取得能力を高次のレベルへと発達を促すのに,仮想空間の中で自分や相手のアバターを設定し,その発言や行動,相互作用を第三者的に観察するのが有効と考えた。そこで,仮想空間の中で学習活動ができる機能を持つメタクエスト2プロや,3Dの高速な処理ができるコンピュータ等を購入する予定である。また,研究の経過や成果を積極的に国内・国外での学会において研究発表を行い,旅費を執行していく。
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