2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on educational methods using media to support the acquisition of pitch cognition
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21K02873
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
佐藤 和貴 高崎健康福祉大学, 人間発達学部, 講師 (10830846)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 克美 東北大学, 教育学研究科, 准教授 (40611182)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 音楽教育 / ICT / 情報機器 / 音高認知 / 音高再生 / 音高弁別 / 音程感 / 音痴 |
Outline of Annual Research Achievements |
音楽教育では、周りの人達と音程を合わせて歌う活動が大きな割合を占めている。そのため音程を正しく聴き取れることや正しく歌えることが重要な能力となっている。こういった正しい音程感の習得のためには、自身の発声した声の音程が合っているかどうかを教師の音声と模倣し合い、音程を確認しながら練習をする方法が一般的であった。しかしこういった方法では、学習者によって教師の声と自分自身の声との間に声質の違いによる音色や響きの差異を感じてしまい、模範の音程を自分の中でうまく処理することができず、学習が円滑に進まないことがあった。 そこで本研究では、学習者にとって聴きやすい模範の音声を利用した練習方法を考案することを目的とし、情報機器を活用した「学習者自身の声質のままでさまざまな音程を再生する方法」による実践を進めている。現在、本研究ではメディアアーティストの及川潤耶によって制作された音響システム「本人の声質のまま音高の変更が可能な音響システム」を利用した練習方法を検証中である。昨年度までの研究では、自身の声をフィードバックして音程を聴き取る練習を行うことで、音程を区別することが苦手な学習者でも聴き取りやすくなることが分かっている。 本年度の実践では、さらに具体的な音楽教育場面を想定し、「正しい音程を歌うための練習」場面と「正しい音程を聴き取るため練習」場面を想定した研究を行なった。その結果、「正しい音程で歌うため練習」では、自らの音声を模範することで、学習者の持つ音程のイメージを他者の声よりも具体的に引き出すことができ、より正確な音程の発声を身につける方法として有効性が見られた。また、「正しい音程を聴き取るため練習」も同様に有効性が見られた。他者の声と比べ、自らの音声の方が音程に着目して聴き取ることが容易となることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度の計画は、「情報機器を用いた音響の創作」であった。 前年度の研究「音高認知習得の実践研究」を通した教育実践では、自分の声質のままで音程を聴くことの重要性が明らかとなった。練習では、客観的に自分の音程を比較することが学習者の理解に大きな影響を与えることが明らかとなり、本研究にとって重要な項目として定めるこができた。これを踏まえ、本年度には、メディアアーティストの及川潤耶によって制作された情報機器による音響システム「本人の声質のまま音高の変更が可能な音響システム」を創作することができた。本音響システムの特徴は次の3点である。(1)被験者の声質を変えずに発音が可能(被験者がマイクを通して発声、音声入力を行うと、被験者の声質のまま音声がヘッドホンへ出力される)。(2)声質を変えず異なる音程を発音可能(入力された音声は、被験者の声質を変えずに、PC操作により任意で音程を変化させ、出力することができる)。(3)発声を聴きながら音程を比較聴取可能(被験者は自身が発声している音声を聴きながら、同時にヘッドホンから出力される音声も聴くことが可能となり、リアルタイムに2音間の音程の比較ができ、音高の違いを自分の声質で比較聴取できる)。これらの特徴から、被験者1人で2音感の音高の違いを感じ取りながら、発声練習をすることができる。被験者は様々な音程の違いを自身の声質で聴き取ることより、注目すべき声の要素を音程のみに限定することで、他者との練習では聴き取りにくかった音高の差を、より容易に習得することができる。本年度にはこの音響システムを利用した「学習者自身の声質のままでさまざまな音程を再生する方法」による教育実践が可能となった。しかしながら、研究協力者が想定より少なく次年度に向けた試行実践数が十分得られていない点は課題となる。 以上のような進捗状況から、研究はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果の考察を進め、今後は「情報機器を活用した音高認知支援の実践検証」を行う。令和5年度には今年度完成した音響システムを活用した最終的な教育現場での実践を実施する。音高認知に関わる課題のある学習者に対し、本音響システムによる教育手法が課題を克服する練習方法として効果が見られるかを明らかにする。 これまでの実践では、対象の研究期間が短く長期的な技能の定着状況を詳細に検証することができなかった。そのため、今後は数ヶ月程度の期間による学習者の変容を見とりたいと考えている。具体的には、従来の教師と学習者による音の模倣のやりとりによる練習方法と、本音響システムを利用した練習方法を統制群、実験群として比較し検証を行う。また、本音響システムを広く教育現場でも活用できるかを検証するために、一般の教師や学習者が1人でも使用できるかを検証する。それぞれの検証では、音程が正しく歌える、聴き取ることができるだけでなく、最終的に楽曲の音程を上手く歌うことができるようになるかというところまで検証を行いたいと考えている。本研究結果が音程感を高める練習方法という枠組みに留まることなく、声を合わせて歌うことの喜びを味わうための練習方法として効果が見られるか明らかにする。 これらの検証結果をまとめ、「音高認知習得支援のためのメディアを用いた教育手法の研究」として研究結果をまとめる。
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Causes of Carryover |
研究実践協力の学生数が想定より少なかったため、学生アルバイトの支出が少なかった。次年度の研究協力学生を増やして実践する計画である。また、コロナ禍のため移動を自粛、学会もオンライン開催が多くなったため旅費の支出が少なくなった。次年度は研究発表予定の国際会議も対面で実施されるため参加する計画である。
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