2021 Fiscal Year Research-status Report
A study of multiple representations based on thinking process survey in university introductory physics course students
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21K02891
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
右近 修治 東京都市大学, 理工学部, 教授 (60735629)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新田 英雄 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50198529)
山本 明利 北里大学, 理学部, 教授 (70751105)
中村 正人 東京都市大学, 理工学部, 講師 (90247130)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | multiple representations / 物理教育研究(PER) / DBER / 相互型演示実験授業(ILDs) / アクティブ・ラーニング型授業 / 概念的理解 / デジタル教科書 / learning attitude |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,理工系大学初年度生を対象とした物理教育研究PER(Physics Education Research)による調査結果に基づき,多様表現(multiple representations)を活用した教材群を開発し,その観点から授業を改善するための具体的手段を構築することである。多様表現を活用した,いかなる教材群が問題解法スキルを向上させ,素朴概念の変容を起こし,高い学習効果をもたらすのか。また,習熟した学生と困難を抱いている学生の取り組み状況は,多様表現活用の観点から,質的に異なるのか。その差異を補う指導ができれば困難者に対してより効果的な指導ができるのではないか。現在までに蓄積されている多様表現に関する認知学習理論と物理学固有の題材がDBER(discipline-based education research)として結合することにより,かかる学術的問いに対して,具体的実践的に答えることができる可能性がある。 2021年度には多様表現を構成する要素の一つである反論テキスト(refutation text)に焦点を当て,これが学生の概念変容に及ぼす効果に関する研究を文献調査したところ,現時点において多くの課題が残されていることが判明した。反論テキストは具体的に物理教科書の記述にどう活かされるべきか,力学教科書の「運動エネルギーと仕事」「エネルギー保存の法則」を題材として検討を進めた。東京都市大学理工学部初年度生物理受講者172名の調査データ及び10名からの聞き取り調査により,多くの学生が「仕事とエネルギー」に関して概念的混乱を保持していることがわかった。こうした混乱は現行力学カリキュラムにおけるエネルギー単元構成にも関わりがあることが明らかになりつつある。エネルギー学習の場における多様表現活用の研究が新たな道筋を拓く可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多様表現を活用した教材として現在,物理教科書「SUPER(Student-centered Understanding based on Physics Education Research)入門力学」を開発中である。教科書を生徒・学生の学びを支援する教育環境全体を表わす「物理スイート」を構成する1つの要素として位置づけ,教科書における言語表現,教科書記述と概念変容に関して文献調査し「教科書の研究-物理教科書は生徒の学びとどう関わるのか-」(青山学院大学教職研究第8号)としてまとめた。言語表現の中でも特に「反論テキスト」構造に着目し,それが「SUPER入門力学」に活かされる可能性について,日本物理学会2021年秋季大会において「物理教育における反論テキスト」として発表した。 物理教育研究会(APEJ)より講演依頼を受け,夏期研究大会において「『エネルギー保存則』どう教えるか」の表題で,学生が抱く仕事とエネルギーに関する概念的困難と現行カリキュラムの問題点について講演を行った。そこで「系」概念および「モデル」に着目することの重要性が指摘されている。また,多様表現の活用が概念変容をもたらす可能性がある。 東京都市大学理工学部必修物理学受講者2学科4クラスを対象としてエネルギー概念調査を実施し,172名分の調査データを得,またその内の10名にインタビュー調査(1人あたり30分)を行った。解析結果は日本物理学会2022年春季大会で「学生のエネルギー概念理解」として発表された。仕事とエネルギー単元をすでに学習し終えた学生が抱く概念的困難が浮き彫りとなり,これは現行カリキュラム構成にも深く関わりがあることが明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
学生が抱く概念的困難に関する調査結果に基づき,その克服を支援するための物理教科書開発を続けていく。当面の目標は力学分野における「仕事とエネルギー」単元である。すでに実施したエネルギー概念調査の解析結果に基づいた詳細な分析と,その克服の手立てに関する研究を推進し,論文として報告する。本研究グループは昨年4月より今年3月まで9回のオンラインミーティング(研究代表者1名,研究分担者3名,研究協力者3名から成る)を実施しながら研究を進めてきた。こうした研究体制・方法は本年度も引き継がれる。またエネルギー概念調査は本年度においても,昨年度調査結果から得られた新たな観点に基づいて引き続き実施する予定である。 多様表現を活用したデジタル教材群,デジタル教科書作成を目指し,実験動画,教材動画作成を続ける。昨年度すでに一部着手されてはいたが,コロナ禍の元では研究分担者,研究協力者が集合することが困難であった。本年度は,できるだけ可能な機会を捉えて推進する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により,予定されていた物理学会,物理教育学会等の学会や研究会がすべてオンライン方式となったため令和3年度旅費が0となってしまい,その結果次年度使用額25万円が発生した。 令和4年度所要額として108万円が申請済である。その内訳は消耗品33万円,旅費60万円,人件費10万円,その他5万円となっている。消耗品中10万円程がデジタル教材作成用機材購入に充てられていた。次年度使用額として発生した25万円は消耗品として組み込まれ,デジタル教材コンテンツの一つである実験動画・静止画を充実させる。予定されていた実験項目をさらに拡張し,そのための実験機材購入費に充てる。
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