2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K02972
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
山本 恭子 神戸学院大学, 心理学部, 教授 (50469079)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 昌紀 神戸女学院大学, 人間科学部, 准教授 (30467500)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 対人感情制御 / 非言語的行動 / 表情 / 視線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,対人的感情制御としての感情の非言語的行動の役割を解明することである。本研究では,外的な感情制御,すなわち「自らの感情表出によって他者の感情を制御すること」に焦点を当てる。2021年度は謝罪時の非言語行動を明らかにする研究を実施した。謝罪は他者の怒りを軽減する目的で行われる対人感情制御ととらえることができる。本研究では,謝罪の動機づけ(誠実な謝罪・道具的謝罪)とセルフモニタリング(演技性,他者志向性)の個人差が,謝罪時の非言語的行動に及ぼす影響を実験的に検討した。誠実な謝罪とは自らの非を認めて謝罪する行為を指し,道具的謝罪とは罰の回避といった目標達成のために表面的に謝罪する行為である。実験では,カフェの店員が顧客に謝罪するロールプレイを参加者に行ってもらった。このとき,誠実謝罪条件では店員のミスにより怒った顧客に謝罪するシナリオを,道具的謝罪条件では顧客の過失にもかかわらず店員に怒った顧客に対して謝罪するシナリオを提示した。実験中の様子を撮影したビデオ映像から視線行動や謝罪表情(FACSのAU1:眉の内側を上げる,AU2:眉の外側を上げる,AU4:眉を下げる,AU15:口角を下げる)の解析を行った。その結果,非言語的行動において,謝罪の動機づけと演技性(セルフモニタリングの下位尺度)の交互作用が見いだされた。具体的には,セルフモニタリングの演技性が低い場合に視線行動は道具的謝罪条件の方が誠実謝罪条件に比べて多かったが,演技性が高い場合には謝罪条件による差が見いだされなかった。また,謝罪表情は誠実謝罪条件よりも道具的謝罪条件で多く,この差は演技性が高いほど顕著であった。これらの結果は,対人感情制御の動機づけが非言語的行動に影響することを示唆する。今後,本実験以外の対人葛藤場面における検討や,表出された非言語的行動の効果について検討することが望まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は,謝罪時の非言語的行動を明らかにする研究を実施した。謝罪は他者の怒りを軽減する目的で行われる対人感情制御ととらえることができる。本研究では,謝罪の種類(誠実な謝罪・道具的謝罪)とセルフモニタリング(演技性,他者志向性)の個人差が,謝罪時の非言語表出に及ぼす影響を実験的に検討した。誠実な謝罪とは自らの非を認めて謝罪する行為を指し,道具的謝罪とは罰の回避といった目標達成のために表面的に謝罪する行為である。実験では,カフェの店員が顧客に謝罪するロールプレイを参加者に行ってもらい,その様子を撮影したビデオから視線行動や謝罪表情(FACSのAU1,2,4,15)の解析を行った。その結果,非言語的行動において,謝罪の種類と演技性(セルフモニタリングの下位尺度)との交互作用が見いだされた。視線行動は,セルフモニタリングの演技性が低い場合には道具的謝罪条件に比べて誠実謝罪条件で少なかったが,演技性が高い場合には謝罪条件による差は見いだされなかった。また,謝罪表情は誠実謝罪条件よりも道具的謝罪条件で多く,この差は演技性が高い人で顕著であった。これらの結果は,演技性の高い人は道具的謝罪を行う際,視線と表情により謝罪の気持ちを顧客に伝達しようとしていたことを示唆する。なお,本研究はFrontiers in Psychology誌に掲載された。 また,コミュニケーション場面における感情制御について「感情制御ハンドブック」の1章を執筆した。この章では主として二者間の社会的相互作用における感情表出の制御について,自身の過去の研究や先行研究に基づいてまとめた。本研究課題の基礎となる内容から構成され,今後の研究を進めるための手がかりを提供するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,対人感情制御における感情の非言語的行動の役割を解明することを目指す。対人感情制御に影響を及ぼすと考えられる要因として,感情制御要求の高さ,他者の感情強度,二者間の関係性に注目する。 研究1(2022年度に実施予定)では,他者の感情制御要求の高さ(高・低)×他者の感情強度(強・弱)が,不快感情経験の対人感情制御に与える影響を検討する。実験参加者には不快感情を生じている人物とコミュニケーションを行っていると想像してもらった上で,その人物の感情を鎮めるようロールプレイを行うよう求め,その様子をビデオカメラで撮影する。また,実験中の主観的感情や感情制御方略の認知について,質問紙を用いて測定する。 研究2(2023年度に実施予定)では,他者の怒りを軽減する目的で行われる対人感情制御の1つである謝罪に注目する。2021年度にサービス場面における謝罪に関する研究を行っているが,本研究では友人関係間の謝罪に注目する。自己の感情制御要求の高さ(高・低)×他者の感情強度を独立変数として,謝罪に伴う非言語行動を検討する。実験参加者には,友人の怒り感情を鎮めるために謝罪のロールプレイを行なってもらう。このときの非言語行動や質問紙で測定した主観的指標との関係を分析する。 研究3(2024年度に実施予定)では,二者間コミュニケーション場面における対人感情制御の検討を行う。実験は2名1組でのペアで行い,参加者Aに感情喚起手続きを行った後,二者間での会話セッションを行う。会話セッションでは,参加者Bに参加者Aの感情を緩和する目標で会話するように教示し,このときの様子をビデオカメラで撮影する。なお,COVID-19の影響により対面コミュニケーションを伴う実験が難しい場合には,オンラインでの検討に切り替えるなどの対応を検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,次年度予算の前倒し請求を行ったためである。前倒し請求は,研究費申請時よりも交付額が減額されたことにより,購入予定の解析ソフトウェア代が捻出できなかったために行った。予算執行については計画通りであったが,購入した機器やソフトウェアが見込みよりも低い金額で購入することができたため若干の残額が生じた。したがって次年度使用額は,当初の計画通り,実験参加者への謝金,非言語行動の解析協力者に対する謝金,学会や打ち合わせにおける出張費用などにあてる予定である。
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Research Products
(2 results)