2021 Fiscal Year Research-status Report
社会から孤立した者はなぜ無差別殺傷を行うのか―その予防に向けて―
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21K02976
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
大上 渉 福岡大学, 人文学部, 教授 (50551339)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
縄田 健悟 福岡大学, 人文学部, 准教授 (30631361)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 無差別殺傷 / 通り魔 / 大量殺人 / テロ / 社会的排斥 / 集団実体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題「社会から孤立した者はなぜ無差別殺傷を行うのか―その予防に向けて―」の初年度(令和3年度)は,主として無差別殺傷に結びつきやすい加害者の個人的要因や社会・集団要因を特定するために,無差別殺傷事件に関するデータベースの作成に取り組んだ。無差別殺傷事件の情報収集には,新聞記事データベース(読売新聞「ヨミダス」,朝日新聞「聞蔵Ⅱ」,毎日新聞「毎索」など)を用い,「無差別」(もしくは「通り魔」「誰でもよかった」「死刑になりたかった」)及び「逮捕」などをキーワードとして検索した。 データベースの内容は随時更新を続けているが,現時点(2022年4月28日)では,147件の無差別殺傷事件(通り魔事件)のデータを入力している。 本格的な分析は未着手であるため概観に留まるものの,4件を除き,全ての事件で加害者は全員男性であった。また無職による犯行は63件あり,10代による犯行は29件あった。殺傷手段としては刃物による刺殺・刺傷が75件と最も多かった。着目すべき点としては,まず車両による突入・ひき逃げ(11件)が挙げられる。欧米では,その実行容易性と殺傷力の高さなどから,公共の場所やイベントを狙った車両突入テロが多発していることもあり,今後,日本での無差別殺傷事件においても頻繁に使用される可能性も考えられる。もうひとつは,刑務所から出所直後の犯行が4件みられた。いずれも出所したものの就労や住居の確保が上手くいかず,社会での生活に不安を感じて無差別殺傷へと至るというものであった。無差別殺傷事件の予防には刑務所出所者に対する手厚い支援も必要なることが示唆された。 令和4年度は引き続きデータベースの拡充を進めるとともに,加害者の個人的要因や社会・集団要因を特定するための分析,さらには,個人的要因,社会・集団要因,集団実体性が無差別な殺傷に至る因果モデルを構築するための準備を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和3年度の研究進捗は当初の予定より遅れている。その主な理由は,研究補助者の確保が困難であったことにある。令和3年度は新型コロナウィルスの感染予防・拡大防止のため,研究代表者・研究分担者が所属する大学では遠隔授業となり,研究補助者として雇用する学生を確保することが難しい状態が続いた。そのため,研究代表者が無差別殺傷事件情報の収集,精査,データ入力を行うことになり,想定以上の時間を要し,研究計画に遅れが生じた。その反面,研究代表者が個々の無差別殺傷事件について入力したため,各事件の詳細を把握しやすいという副次的メリットもあった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は先行研究や関連文献・資料のレビューを行いながら,以下の研究を進める。まず,現在取り組んでいる無差別殺傷事件のデータベースの拡充を図るとともに多重対応分析を行う。また個々の事件について裁判所の判決やジャーナリストによるルポなどのテキスト情報を収集し,テキストマイニング分析を行う。これらの分析によって,無差別殺傷に結びつきやすい加害者の個人的要因や社会・集団的要因の特定を試みる。 さらにリサーチ会社に委託し,上記の分析で特定された個人的要因や社会・集団的要因に加え,他責的傾向や欲求不満,また集団からの排斥経験,所属集団に対する実体性の認識の程度,所属集団に対する攻撃的空想なども測定し,構造方程式モデリングを用いて,排斥経験や集団実体性の認識,他責的傾向などが,所属集団に対する無差別な報復攻撃へと向かわせる過程の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
令和3年度の研究計画の中核は無差別殺傷事件データベースの作成であったが,所属大学では新型コロナウィルスの感染・拡大防止のため遠隔授業が長く続いた。そのため作業を担う研究補助員を雇用できず,彼らの入力作業に必要とみられていたPCや大型ディスプレイ,大判プリンタなどの設備備品や消耗品の購入を見送った。これらについては次年度以降に購入したい。
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