2022 Fiscal Year Research-status Report
権力の集中による協力形成:権力者と被支配者の相互作用に着目して
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21K02979
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
大薗 博記 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (50709467)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 協力 / 公共財 / 罰 / ガバナンス / リーダーシップ / 集団 / 進化 / 専制 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会的ジレンマ(SD)を解決するために罰権力の集中が提案されてきたが、本研究は権力者(支配者)と被支配者の相互作用に着目して、「支配-被支配という階層構造の中で、権力の暴走を制御し、集団協力が達成される条件は何か」を明らかにする。当該年度は、計画2)権力者への支援はどのようにして起こり、安定的な協力が維持されるのか、を集団実験により検討した。具体的には、以下の2つの研究を行った。 一つ目は、統治の構造を単純にモデル化して実験を行うことにより、権力者が私欲に走り専制に至るか、集団成員のために善政を敷くかを分ける条件を探り、成員がどのような権力者に従うかを検討した。予備実験の結果、成員が集団から離脱しにくい(離脱コストが高い)と権力者は専制に走る(成員のために資源を使用せず、罰や自己利益を増やすことに資源を使用する)傾向が高まることがわかった。今後は、本実験を行い、発表や論文投稿につなげていく。もう一つは、権力者への支援と権力者からの罰に特化した実験を考案し、支援が維持される条件を探った。具体的には、成員側に反撃能力があるか否かを操作した。何回かの予備実験の結果、安定した傾向が認められず、実験デザインに問題がある可能性が浮き彫りになり、今後再検討していく必要がある。 さらに、「権力の暴走」という本研究のテーマに関連して、国際情勢も鑑みて、「武力保持の規定因」に関する研究に新たに着手した。具体的には、お互いに相手に攻撃するか否かを決定する「先制攻撃ゲーム」について、そもそも攻撃能力(武力)を持つか否かの決定を加えた「保持/不保持選択付き先制攻撃ゲーム」を着想し、実験を行った。その結果、「相手が武力を保持する可能性が高いと見積もっているほど、保持の決定をしやすい」という武力均衡を求める傾向があることが見出された。この結果は、国内学会で発表し、現在投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、大きく2つの計画からなり、前年度は計画1,当該年度は計画2と順調に進めることができている。概要で述べたように、計画2においては2つの研究を同時進行し、1つ目は安定した結果を得られており、今後も順調に成果を出すことが期待できる。2つ目は結果が安定せず、再検討が必要と言える。さらに、当初の計画にはなかったが、現在の国際情勢の中で重要で、かつ本研究のテーマとも合致する「武力保持の規定因」研究も行い、成果を得ている。これらの進捗状況を総合的に判断して、「おおむね順調に進んでいる」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
実績の概要で述べたように、「権力者が専制に走る」条件を探る研究を進めていく。具体的には、300名以上の大学生被験者を対象にした実験を行い、データを収集し、学会発表、論文投稿へと進めていく。さらに、現状は権力者1人と複数の成員という「単一の国家」での意思決定を検討しているが、今後は「複数の国家」があり、その間で成員が移動できる状況を設定し、権力者間の競争も組み込んだ実験を構想している。具体的には、成員が自らが所属していない「国家」の状況を観察可能かどうか(可視性)を操作し、可視性が高い方が権力者は善政を敷きやすくなるかを検討する計画である。 また、「武力保持の規定因」研究についても、論文投稿に進んでいく。さらにバリエーションとして、「武力保持の初期状態」を操作した実験を行い、「武力の非対称性(片方は武力を保持しているが、もう片方は保持していない状況)」が保持の拡大に向かわせる可能性について検討する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、本研究代表者が代表を務める前科研事業(若手研究)の遂行が1年ずれ込み、そちらにエフォートが割かれたことが当該年度の進捗にも影響を及ぼしたのが理由である。しかし、報告で述べたように、本事業に関係する研究はおおむね順調に進行しており、次年度に向けた立案も進展している。また、実験室実験も本格的に可能となり、オンライン実験を行えるスキルとシステムも確立しているため、今後も実験を計画的に遂行し、執行していく予定である。
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Research Products
(2 results)