2023 Fiscal Year Research-status Report
心理学の一領域としての学校心理学の起源と発展ー教育心理学との差別化をめぐってー
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21K02993
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大芦 治 千葉大学, 教育学部, 教授 (30289235)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 心理学史 / 教育心理学 / 学校心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、心理学の中で類似した隣接領域と考えられている「学校心理学(school psychology)」と「教育心理学(educational psychology)」がいつごろ、どこxで、誕生し、 やがて、それぞれ別の領域として独自性を自覚し、成長発展していったかを当時の雑誌記事や、学校心理学、教育心理学のそれぞれ生みの親とされる人物の残した記述などから明らかにしようとしたものである。 本年度は、これまでややとびとびに行ってきた研究をまとめるため、旧来からの仮説ー教育心理学、学校心理学とも1890年から1910年ごろにかけて成立したもので、およそ、そのあたりまでたどることによって、起源と棲み分けが行われるようになった経緯が理解されるのではないかーとというものを再検討した。そのため、この時代から比較的最近までの2つの雑誌(Journal of Educational Psychology, Journal of School Psychology)のタイトル、アブストラクトから抽出されるほぼすべてのキ―ワードを比較した。その結果、両者は1910年代のより古い時代からある程度独立した一今日一般的に考えられる領域とは異なる領域として成立していたことが判明した。Witmerによって、また、これとは別の歴史をもち、両者の棲み分けなどというものはそもそもその黎明期にあっては、存在しなかった可能性が高いということである。 現在、著者はこの研究をうけて、むしろ、教育心理学の起源をさぐる方面に軸足をうつしつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
おくれているというより「研究実績の概要」で記したように、当初見込んでいた「学校心理学」と「教育心理学」の掛け合いの歴史というようなものはなかった。したがって、研究時間、資源の配分自体が教育心理学の歴史の解明のほうに大きく投入ざれることになり、そういう意味で研究が当初の予定通り進んでないというべき状態になっている。 教育心理学は19世紀を通して時間をかけながら師範学校のカリキュラムの中で作り上げられてきたものであるのに対し、学校心理学はその創始者Witmerによって、比較的短期間のまとめられたもので、両者にはあまり接点がない。また、Witmer自身は自分の創始した心理学の領域を臨床心理学と呼んでいたことも考慮しなくてはならない。その点を十分踏まえたうえで、入門書、入門講義などで安易に「学校心理学」と「教育心理学」を隣接領域として扱うのはもっと慎重になるべきであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで実施してきた研究を踏まえて考えると、本研究課題でテーマとした「学校心理学」と「教育心理学」の棲み分けということはさして大きな問題ではなく、むしろ、両者はそれぞれ別の領域で、特段深い関係がある訳でもなく、それぞれの固有の歴史的発展を遂げていたことがわかった。むしろ、それらを探索してゆくことこそ、研究数の絶対量が少ない現況においては、必要なのではないだろうか。 なかでもなかでも、当面は教育心理学の歴史研究に専心するのがよいのであろう。教育心理学は、一般に考えられているようにE.L.Thorndikeによって20世紀初頭に始められたものではない。Educational Psychologyという名称自体はさらに15年ほどさかのぼり1880年代に突然出現する。また、それ以前は師範学校などでmoral philosophyなどの名称で心理学に関連した科目が開講されていたことを、著者も確認しているが、これらがどこに由来するのか、実は、わからないことも多い。すでに著者は教育心理学の起源を求める研究にも取り組んでいるが、当面は、そこに専心してゆくのが、一番、大きな成果が得られるのではないかと感じている。
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Causes of Carryover |
計画段階では学校心理学の歴史を軸に教育心理学の歴史も絡め研究を進める予定であったが、実際は、むしろ、教育心理学史を中心に据えるべきだったことが、次第に明らかになり、そのため全体の進みも遅くなった。そのため当初、考えていた学会発表なども予定ほどは行えていない。また、新型コロナウィルス感染症の流行によって学会開催が延期されるなどといたことも重なった。そうしたこともあり、学会発表の機会が計画よりも遅くなってしまった。本年度は、このような状況を踏まえ、これまでの成果を次につなぐべく教育心理学史を中心に据えたこれまでの研究成果のまとめを学会(国際心理学会議 7月末に開催予定)に参加、発表することにした。助成額の大部分は航空運賃(宿泊費、学会参加費)にあてられる見込みである。
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