2022 Fiscal Year Research-status Report
ASDの多様な病像を認知粒度の観点から統一的に説明するモデルの実証的構築
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21K03019
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小嶋 秀樹 東北大学, 教育学研究科, 教授 (70358894)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自閉症 / 認知粒度 / 他者理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,多様な病像をもつASDに対して,認知粒度という視座を与え,そこから多様な病像を統一的に説明するモデルを構築することを目的としている。令和4年度は,自閉症児と定型発達児のロボットに対するインタラクションを比較分析することと,近年進展が著しい予測情報処理モデルを適用した対象理解・他者理解のモデル化を進めた。対照群となる定型発達児については,保育園における集団的なロボットとのインタラクションの質的分析を深め,子どもたちがそれぞれにファンタジー(ロボットや他児の役割,環境への見立てなど)を想定し,ロボットや他児や環境への言語的・非言語的な関わりを見せていくことを観察した。互いの関わりを重ねあい,調整しあうなか,それぞれの子どもの内部では,予測と経験を整合させるようにファンタジーが一定の範囲に収束していくことを見出し,ここから社会性発現・コミュニケーション発現のモデルを構築した。また予測情報処理の観点からこのモデルを定式化し,令和5年度に開催される国際会議論文として投稿している。これらの活動・成果や,その背景となる認知粒度の考えなどを,日本教育心理学会の年報,日本ロボット学会による書籍,日本発達心理学会の大会,清華大学での公開講義などで発表することができた。また,来年度から本格的に実施する心理実験の実施に向けて,より小型した実験用ロボットの開発を,ロボット開発のベンチャー企業の協力を得て進め,そのプロトタイプが完成した。現在その遠隔制御ソフトウェアを開発を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトは2年目に入り,より具体的な検討およびロボットを使った心理実験の準備を進める段階に入った。全体として従前から計画していたとおりの活動・成果が実現できている。また,対外的な学術発表も順調に進めている。定型発達児におけるファンタジーの共同構成については,小嶋秀樹:子どもからロボットへの「予測」が共鳴するとき(日本発達心理学会 第34回大会・大会企画シンポジウム「デジタルやロボットが育む非認知能力」(立命館大学・大阪いばらきキャンパス), 2023/3/4.)として発表し,発達研究者を中心にさまざまなフィードバックを得ることができた。また,本プロジェクト全体にわたる発達観・自閉症観などについては,小嶋秀樹:人間科学とロボティクス(日本ロボット学会編:ロボット工学ハンドブック 第3版, pp.85-109, コロナ社, 2023.)や,小嶋秀樹:ロボットを活用した発達障害の研究と療育実践(超教育会議 第108回 オンラインシンポ, 2022/12/07.),小嶋秀樹:ロボットを媒介とした参与観察による質的発達研究の可能性(白梅学園大学 発達臨床セミナー, 2022/11/13.),Hideki Kozima: Interdisciplinary engagement in cognitive research using robots(Tohoku-Tsinghua Global SDGs Dialogue Series "Promoting Sustainability through Innovating University Teaching and Learning (AI and SDGs)", 2022/09/02.)などとして発表している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も認知粒度と自閉症の関係,定型発達におけるコミュニケーション可能性との関係を探究していく。自閉症児・定型発達児とのインタラクション観察に向けたロボット開発もハードウェアについては完了し,遠隔制御ソフトウェアの開発を令和5年度前半に進めていく。また後半では,具体的なインタラクション観察を開始するため,その技術的および実務的な準備をしっかりと進めていく。加えて,視覚刺激提示によるカテゴリ弁別の粒度を調べる心理実験についても準備を進め,ロボット実験と並行して(同じ被験児を対象として)実施できるようにする。また,コロナ禍による移動制限もなくなったため,令和5年度からは積極的に国内・国外の学術集会での発表を進め,今後も本研究を発展させていくための国際共同研究体制も構築したい。
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Causes of Carryover |
令和3年度に16万円ほどの繰越しをした。その主な理由は学会参加がオンラインになったため旅費支出が想定を下回ったためであった。令和4年度は,ほぼ予定していた学会参加(対面)を実施でき,当初の想定どおりの旅費支出があったが,前年度からの繰越し分の活用には至らなかった。令和5年度には国際会議などへの参加も予定しているため,この繰越し分を計画的に活用していく予定である。
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Research Products
(6 results)