2023 Fiscal Year Research-status Report
ASDの多様な病像を認知粒度の観点から統一的に説明するモデルの実証的構築
Project/Area Number |
21K03019
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小嶋 秀樹 東北大学, 教育学研究科, 教授 (70358894)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自閉症 / 認知粒度 / ロボット / 想像力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,多様な病像をもつASDに対して,認知粒度という視座を与え,そこから多様な病像を統一的に説明するモデルを構築することを目的としている。令和5年度は,保育園における定型発達児を対象としたロボットとの集団インタラクション観察の質的分析を進め,子ども集団のなかでファンタジーが共同構成されていくプロセスのモデル化を進めた。観察対象となった子どもたち(3歳児クラス27名)は,それぞれにロボットや他児の役割,環境や玩具に対する見立てなどを想像し,それにもとづいてロボットや他児などに行為していく。子どもの集団は,想定(予測)と経験(観測)を整合させるようにファンタジーが一定の範囲に収束していく。その個体内プロセスを予測情報処理の観点からモデル化し,また個体間プロセスを自己組織化(互いの行為の意味の最大化)プロセスとしてモデル化した。この個体内・個体間のプロセスは,いわゆる「ふり遊び」の認知プロセスであるが,コミュニケーションの一般モデルとして捉えることが可能であり,また集団における合意形成の一般モデルにもなりうるポテンシャルを持っている。その全体像を国際会議「IEEE International Workshop on Robot and Human Communication 2023」で発表し,好評を得ている。また,この取り組みについて,その背後にある認知粒度の考えを含めて論文化し,国内論文「心理学評論」に発表した。また,より広い視野から本研究の発達研究としての意義を福村出版からの書籍「からだがかたどる発達」として分担執筆により発刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで自閉症スペクトラム障害児におけるロボットとのインタラクション観察をもとに,認知粒度という観点から自閉症と定型発達をへだてる認知メカニズム上の差異を特定するべく研究を進めてきた。遺伝的な差異からもたらされると考えられる脳の構造的な粒度の細かさ(処理ユニットの過多)に起因することで,自閉症者は世界をより細かなカテゴリに分節して捉えようとする。脳と認知と行動における粒度によって自閉症に広く見られる特徴(社会的コミュニケーションの障害,限局化された行動や想像力)を統一的に説明できる見通しが得られてきた。また,定型発達児に見られる「予測情報処理」の個体間における同調現象を,保育園における子どもたちとロボットとの長期インタラクション観察から,ふり遊びのダイナミズムとして捉えることができた。今年度は,その質的分析から個体内および個体間のプロセスをモデル化することに注力した。個体内における「想像」のプロセスを予測情報処理(予測符号化)の考えを拡張することで説明できる見通しが得られた。通常の予測情報処理は,外界に対する感覚情報と外界に対する予測情報から,その誤差を最小化するべく予測を更新したり,あるいは外界に働きかけたりする。そこに「ふり」や「見立て」を生成するプロセスを導入し,予測情報処理を拡張することで,子どもの「想像」のプロセスをモデル化した。また,そのような子どもたちの集団が環境(遊び相手であるロボットや他の玩具など)を共有した状態で,互いの行為の意味を最大化するというプロセス(自己組織化プロセス)を想定し,集団におけるファンタジーの共同構成や,より一般的なコミュニケーション・合意形成のモデル化を進めることができた。また,国際会議や論文,書籍をとおして,その成果を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は本研究プロジェクトの最終年度となる。これまでに進めてきた「認知粒度」にもとづく自閉症モデルや「想像の共同化」にもとづく定型発達的なコミュニケーションのモデルをまとめ,国際会議や論文としての成果発信に努め,またより広い視座から本プロジェクトの成果の意味づけを進めていく。とくに定型発達児の集団における「想像の共同化」は,独創性の高い研究テーマと言え,多くの研究者からの問い合わせをいただいており,国際的な共同研究への展開も期待できる。具体的には,プラハで開催される国際心理学会での講演を予定しており,今後の研究の国際展開に向けた国際パートナーづくりも進めたい。またドイツのフンボルト大学からも共同研究の提案をいただいている。これらと並行して,国際論文・国内論文・書籍としての発表も並行して進めていく。加えて,本プロジェクトの成果を療育・教育の実践につなげ,研究成果の社会展開に向けた準備も進める。たとえば国連機関が主導しているInclusive Educationに関する共同研究・共同実践のコミュニティに参画し,ロボットを使った子どもの観察や療育・教育的な応用についての議論を深めていく。そのための足場づくりとして,国連機関スタッフおよび海外有力大学との協働を進め,海外拠点での研究発表やロボットを持ち込んでのデモンストレーションなどを既に実施している。今年度は,これらの取り組みにより,次フェーズの研究・社会展開への準備も進めていく。
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Causes of Carryover |
出席予定であった国内会議がオンラインでも参加可能だったため,オンライン参加に切り替えたため,予定していた旅費支出を下回った。また発表論文に掲載料がかからず(代わりに別刷を一定量だけ購入)そのための予定支出がなかった。
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