2022 Fiscal Year Research-status Report
感覚処理感受性に着目した児童の心の健康問題を解決する効果的な自然体験活動の提案
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21K03035
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
大石 和男 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (60168854)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 伸太郎 千葉工業大学, 先進工学部, 助教 (20750409)
矢野 康介 独立行政法人国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター, 青少年教育研究センター, 研究員(移行) (30967568)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 感覚処理感受性 / 環境感受性 / Highly Sensitive Person / 自然体験活動 / メンタルヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
厚生労働省(2022)が公表した報告書によれば、児童期を含む十代における自殺者数は増加傾向にあるという。これまで、その予測因子となるメンタルヘルス悪化に向けた有効な解決策の一つとして,自然体験活動が注目されてきた。しかしながら、その効果には大きな個人差のあることが指摘されており(Bratman et al., 2019)、活動の効果を一層高めるための知見を積み重ねる必要がある。本研究課題では、自然を含む種々の環境刺激からの影響の受けやすさを表す生得的な特性である、感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity;以下,SPSと略記)の概念に注目し、SPSの程度に応じた効果的な自然体験活動プログラムの提案を行うことを目的としている。 令和3年度の研究において、日帰りの自然体験活動プログラムへの参加を通じて、抑うつ傾向の低減が示されたことを踏まえて、本年度は1泊2日の宿泊を伴う自然体験活動プログラムを対象に、その効果検証を行った。具体的には、小学生203名を対象に、①活動直前、②活動直後、③活動1ヶ月後の計3時点で質問紙調査を実施し、メンタルヘルス(生活満足感、目標・挑戦、自信、怒り感情、疲労、引きこもりの6因子で構成)やSPS、自然体験活動におけるさまざまな体験(自然とのふれあい、挑戦・達成、他者協力、自己開示、自己注目の5因子で構成)の頻度を測定した。分析の結果、メンタルヘルスの構成因子である、「怒り感情」の低下と「自信」の向上が認められ、それらの効果は活動1ヶ月後まで持続していた。その一方で、SPSが高い場合は、「生活満足感」がやや低下していた傾向にあった。したがって、宿泊を伴うプログラムにおいても、自然体験活動の効果はSPSの程度に応じて異なることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度と同様に、令和4年度も新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、調査対象の自然体験活動プログラムにおける規模縮小や延期、または中止といった措置を余儀なくされた。その一方で、限られた環境下にあっても、自然体験活動プログラムがメンタルヘルスのどの側面に効果を有するのかを明らかにすることができた。 また、当初想定していた、自然体験活動プログラムに参加した小学生へのインタビュー調査が実施困難となったものの、上記の量的データと共に収集した質的データ(自然体験活動プログラムの感想文)の分析に着手することで、ある程度は補完することが可能である。 このように、研究課題期間を通じて、当初の想定からは一部変更を余儀なくされているものの、令和3年度に得られた知見や、次年度に計画している研究計画を遂行することにより、本研究課題全体の目的(SPSの個人差を踏まえたうえで、児童のメンタルヘルス改善に有効な自然体験活動プログラムの開発に資する知見を提供すること)は達成可能と考えられる。したがって、令和4年度は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究より、①日帰りおよび短期宿泊型の自然体験活動プログラムが、児童のメンタルヘルス改善に対して有意な効果をもつ一方で、その量(変化の大きさ)や質(変化の方向)は、SPSの程度に応じて異なること、②自然体験活動プログラムの効果を促進するために重要な経験内容も、SPSの程度に応じた差異があること、といった知見が得られている。 令和5年度は、前年度までに収集した質的データ(自然体験活動プログラムの感想文)の分析と、縦断的なインターネット調査を実施する予定である。前者は前年度までの調査結果からより精緻な知見を得ることが期待される。また、前年度までの調査対象者が、野外教育施設での自然体験活動プログラムに参加した児童のみであったことを踏まえると、後者の取り組みによって、より日常的な自然体験活動の効果を検証することができる。そこで得られる成果は、校内実習や都市緑地を利用した野外教育に対する示唆をもたらすものと考えられる。 また、本研究課題の最終年度となるため、得られた知見の論文化も行う予定である。
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Causes of Carryover |
調査時期の延期により、令和4年度に予定していた研究成果の公表が遅延している。次年度使用額の用途としては、国際学会への参加費や旅費、国際学術誌への論文投稿に要する英文校正費やオープンアクセスジャーナル掲載費、それらに係わる雑費等を予定している。
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