2022 Fiscal Year Research-status Report
偶発学習に及ぼす想起されたエピソードの効果および学習者の情動処理能力の個人差
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21K03038
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
豊田 弘司 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (90217571)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 偶発記憶 / 再生成績 / 自伝的エピソード |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,参加者が記銘語から想起する自伝的エピソードの特徴によって記憶が促進されるという現象に注目し,どのような自伝的エピソードが記憶を促進するのか,参加者の情動処理等の個人差によって,その記憶促進は異なるのかを検討するものである。 本年度は,再生成績の高い上位群と低い下位群を比較して,想起される自伝的エピソードの違いを検討した。実験は,前年度と同じく偶発記憶手続きを用いて集団的に実施し,方向づけ課題では参加者に記銘語を視覚提示して,その記銘語から想起される過去の自伝的エピソードがあるかないかを考えさせた。挿入課題の後,偶発自由再生テストを行い,その後,記銘語から想起された過去のエピソードの属性(鮮明度,感情価(快-不快)及び懐かしさ)を評定してもらった。その結果,再生語に対応するエピソードの評定段階ごとの%をみると,どの評定尺度においても最も大きい評定段階(6)がエピソードの割合が高く,反対に非再生語に関してはエピソードの属性はばらついていることが示された。したがって,属性が自伝的精緻化の規定要因として追証され,最も高い評定段階(6)が再生・非再生を判別する属性の強度として考えられた。また,再生語と非再生語を込みにして評定段階ごとの再生確率を算出すると,鮮明度6段階で65%(他の段階は59~39),感情価6段階で71%(他の段階は54~37%),懐かしさ6段階で62%(他の段階は55~395)であった。いずれの評定尺度においても6段階での再生確率は高いことがわかる。さらに,どの評定尺度に関しても再生語に対する評定値の平均値は下位群が上位群よりも高く,上位群が必ずしも高い評定値のエピソードを想起しているのではないことが示された。ただし,上位群には鮮明度と他の2つの尺度との間に正の相関,下位群では負の相関があり,鮮明度の高いエピソードが再生を規定している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,記銘語から想起される過去の自伝的エピソードによって記憶が促進されるという現象に注目し,主に1)どのような自伝的エピソードが記憶を促進するのか,2)参加者の情動処理等の個人差によって,その記憶促進は異なるのかを検討するものである。 1)の目的に関しては,本年度は,再生率の高い上位群と低い下位群を比較し,鮮明度,感情価(快-不快)及び懐かしさという属性には再生・非再生を分ける属性の強さの閾値が個人内で存在すること,上位群では鮮明度が規定要因として最も強いが,下位群では強い属性が特定できないことが示唆された。この結果は,新しい発見であり,成果として評価できる。2)の目的に関しては,情動知能との関連は見いだせなかったが,目標指向性という別の特性との関連での実験を行い,自伝的エピソードの有効性を規定する可能性が示唆されている。したがって,研究はおおむね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
参加者の情動知能等の個人差が,自伝的エピソードの記憶の促進効果に影響するのかを検討することになる。本年度に行った実験によって,参加者の目標指向性という個人差によって自伝的エピソードの有効性が異なることが示された。 今後は,記銘語から想起される自伝的エピソードの時間属性(過去,未来)を操作変数として加えることで,個人差変数との関連を明確にする研究を遂行していくことになる。実験手続きの基本は本年度とは変更ないが,提示形式(集中提示,分散提示)という操作変数を加えた実験を計画している。というのは,反復提示することによる自伝的エピソードの有効性の違いが検出されやすいためである。また,方向づけ課題において参加者が情動を処理しやすい教示を用いて,本年度明らかにできなかった参加者の情動知能の4つの側面との関連を検討する。さらに,本年度で明らかになった時間的展望性を再生率との関係で検討するのが,今後の研究計画である。
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Causes of Carryover |
コロナ状況下において国内学会及び国際学会での研究発表の旅費が不要になったこと,関連研究者との打ち合わせがキャンセルされたこと,個別実験がコロナ状況下において制約があり,少なかったことでデータ入力の人件費等の支払いが不要になったことが理由である。 ただし,研究成果を英文発表するための英文校閲などの支出は増加することが予想できる。また,研究成果として発表する論文の掲載費も増加する。さらに,国内学会に関しては対面で開催される学会にはエントリーしているので,旅費の支出が必要になる。 当初の予算計画は,海外での学会発表を想定して,旅費の割合を高めていたことがこの次年度使用額が大きくなった理由である。
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