2023 Fiscal Year Research-status Report
偶発学習に及ぼす想起されたエピソードの効果および学習者の情動処理能力の個人差
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21K03038
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
豊田 弘司 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (90217571)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自己選択効果 / 情動の制御と調節 / 自伝的エピソード |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,どのような自伝的エピソードが記憶を促進し,参加者の情動処理の個人差による記憶促進の違いを検討するものである。 本年度は,提示された単語対から想起される過去の自伝的エピソードの感情価が,単語を選択する際の選択規準に適合しているか否かによって,再生に及ぼす効果の違いを検討した。単語対を快語ー中立語に設定し,参加者が選択規準を快規準(より快なエピソードが想起される語を選択)及び不快規準(より不快なエピソードが想起される語を選択)にして単語を選択する場合(自己選択条件)の選択された語の再生率を調べた。その結果,快規準にした場合が不快規準に設定した場合よりも選択された語の再生率が高いことが明らかになった。また,単語対の片方を指示してその単語から快もしくは不快エピソードを想起させる条件(強制選択条件)との再生率の違い(自己選択効果量)も検討した。その結果,自己選択効果量は,快規準で選択した場合が不快規準で選択した場合よりも大きかった。これらの結果は,単語から喚起されるエピソードの感情が選択規準で設定された感情と一致する場合(快規準で選択する場合)に,選択された語(自己選択語)は,指示された語(強制選択語)よりも認知構造へ統合されやすいと解釈された。 さらに,参加者の情動知能における情動の制御と調節(MR)能力の個人差による違いを検討した。その結果,MR能力の高い参加者における快規準による自己選択効果量(自己選択条件における再生率ー強制選択条件における再生率)が,MR能力の低い参加者における自己選択効果量よりも大きかった。そこには,不快規準による選択条件において自己選択及び強制選択条件で再生率が低下していることが反映されている。したがって,MR能力の高い参加者では,選択規準と適合しない不快感情が抑制され,適合する快感情は抑制されず,それが自己選択効果量へ反映されたと解釈された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで,通常の偶発記憶手続き及び意図記憶手続きを用いた実験をそれぞれ3つずつ行ってきた。その結果,研究の主目的である記銘語の検索に有効な自伝的エピソードの特徴を明らかにすることができている(エピソードの鮮明度,懐かしさ)。また,単独の特徴だけでなく,複数の特徴の相互作用による効果も明らかにしている。そして,記憶成績の上位群と下位群では検索に利用するエピソードの性質が異なることも明らかにした。さらに,情動知能の個人差との関係も明らかになり,単に自伝的エピソードの特徴を言及するだけでは不十分であり,個人の特性との関係が規定要因である可能性を示唆するデータが得られている。このように順調に成果を見いだしてはいるが,実験材料作成に時間がかかり,予定している実験がやや遅れ気味である。ただし,実験データから見いだした新しい結果を参考に新たな分析を考案する過程での進展もある。 したがって,研究全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,情動知能以外の個人差との関連を検討する。具体的には時間的展望体験尺度を用いて,未来への志向性の高い者は,単語から想起される未来エピソードによる促進効果が見られると予想できる。すでに予備実験を行い,条件による違いはあるものの,時間的展望体験の誓いによって,自伝的エピソードの時間系列(過去,未来)による効果が異なる可能性が示されている。 本課題の研究申請期間は,本年度で最終年度になるが,コロナによる影響で検討すべき課題を完全にクリアできているとはいえない。予算が残っている状況である。したがって,期間延長の申請をする可能性も含んで,本年度は上述したような着実な実験計画を考えている。また,これまでの成果を学会発表はもちろん,研究会等で公開する計画である。
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Causes of Carryover |
前年度よりコロナ状況下において国際学会及び国内学会が不開催もしくはオンライン開催になったため,旅費が不要になったこと,本年度は国内学会が対面で実施されたが,それほど旅費を使用しなかったことが理由としてあげられる。 次年度は国内学会での旅費が必要であり,それへの使用が見込まれる。また,英文校閲の費用も昨年通り予想されるので,これらへあてていく計画である。なお,研究成果の発表の機会として予定していた国際学会(ICP)への参加をエントリーしたが,校務のために参加できないことになった。したがって,本年度が最終年度になるが,残金が生じる可能性があるので,延長申請を含めた使用計画(次年度は,国内学会3つで発表予定)を設定する。
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Research Products
(4 results)