2021 Fiscal Year Research-status Report
視覚誘導性自己運動知覚の根源的駆動因の同定ー非輝度定義運動の効果の包括的検討ー
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21K03135
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
中村 信次 日本福祉大学, 教育・心理学部, 教授 (30351084)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 運動知覚 / 自己身体運動 / ベクション / 非輝度定義運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の初年度として、関連する先行研究を再度渉猟の上、研究計画の詳細を決定した。また、既設の実験設備(広視野視角ディスプレイを中心とする視覚刺激提示装置)を拡充し、研究計画を通して心理実験が可能な環境を整えた。 非輝度定義視覚運動が自己身体誘導運動知覚(ベクション;vection)に及ぼす影響を検討する実験の最初の試みとして、方位定義回転運動(フラクタルローテーション;Fractal Rotation; Benton, 2007)を誘導刺激とするベクション実験を実施した。13名の大学生が参加した心理実験により、方位定義回転運動が一定程度の強度を持つ視覚誘導性自己回転運動知覚(roll vection)を誘導可能であることを見出した。この結果は、視覚刺激に輝度変調運動成分が含まれる場合のみに有意な強度の自己運動知覚が誘導可能であるという、これまでベクション研究の主張を覆すものであり、視覚情報からの自己運動情報復元にかかわる知覚心理学的プロセスのモデルに見直しを迫るものである。 一方、矛盾する回転方向を有する輝度定義回転運動と方位定義回転運動を重畳して視覚刺激として呈示した場合には、輝度定義運動要素の輝度コントラストが(方位定義回転運動要素の輝度コントラストに比べ)相当程度低い条件においても、輝度回転運動と対応した自己運動知覚が生じることとなった。自己運動知覚生成のプロセスにおいて、輝度定義運動情報と非輝度定義運動情報の統合の際に、両者の相対的関与の強度が大きく異なることを示唆する結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度においては、コロナウィルス感染防止対策の一環として、学生の大学出校が禁止されていた時期があり、研究代表者の所属大学の学生を実験参加者の第1候補として想定していた実験実施が不可能であった期間があった。そのため、実験実施を短期間で終了させるために、予定していた実験計画を修正し、実験参加者の人数の削減、検討する条件の縮約、条件当たりの観察回数の削減などを行った。上記の通り、非輝度定義視覚運動が自己身体誘導運動知覚に及ぼす影響に関し、一定程度それを裏付ける結果が得られているが、その効果はあまり強いものではなかった。視覚刺激の細部の見直しを行ったうえで、2022年度再度心理実験を重ねることで、非輝度定義運動の効果を詳細に検討することとする。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、2021年度の進捗の遅れを挽回するための追加実験を実施したのち、回転運動以外の非輝度定義運動がベクションに及ぼす影響を分析する実験に着手する。視覚刺激として、大きさ定義拡大運動(Stochastic Expansion, Schrater et al, 2001)を導入し、2021年度確認した非輝度定視覚刺激運動が有意な自己運動知覚を誘導可能であるという知見が、回転運動のみに限られるのか、自己身体の前後方向への直線運動にも拡張可能であるのかを検討する。これらの結果に基づき、非輝度定義運動の効果を取りまとめ、それを表現可能な包括的な視覚誘導性自己運動知覚モデルを立案する。立案したモデルに基づいて、輝度定義・非輝度定義双方の視覚刺激運動が、自己運動知覚や自己運動の制御(歩行等)に及ぼす影響を予測し、それを実証的に確かめる心理実験を遂行することとする。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染拡大に伴い、2021年度に計画していた心理実験が未完であったこと、予定していた学会での報告がオンラインでのものとなったことなどにより、謝金、旅費等に大きな差額が生じた。2022年度は、繰り越し分を含めた心理実験の実施により、消耗品、謝金等の増額が予想され、また、学会等も対面で行われる機会が増えることが想定されることから旅費等の支払いも増えることが想定される。また、2023年度中に論文公開を予定しており、英文校正費用やオープンアクセス経費も生じることから、2022年度繰り越し分と2023年度当初計画の経費を合算して使用することとする。
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Research Products
(3 results)