2022 Fiscal Year Research-status Report
Spectral and scattering theory with microlocal and semiclassical methods
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21K03276
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中村 周 学習院大学, 理学部, 教授 (50183520)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | シュレディンガー作用素 / スペクトル理論 / 散乱理論 / 超局所解析 / 半古典解析 / 連続極限 / 非楕円型作用素 |
Outline of Annual Research Achievements |
超局所解析の手法を用いた、シュレディンガー方程式を中心とする量子力学の方程式、作用素に関する研究を行った。具体的な研究成果について、以下に概略を 述べる。 (1) 一般的な量子力学のハミルトン作用素は、空間変数に関する偏微分作用素であり、楕円型である場合がほとんどである。一方、時間を含むシュレディンガー作用素、クライン・ゴルドン作用素などを時空間上の作用素と考えると、形式的に自己共役作用素であるが、楕円型作用素ではない。特に時空間上の(変数係数)クライン・ゴルドン作用素は、一般相対論的な場の理論の構成で用いられるファインマン時間発展作用素の存在に関わり、近年盛んに研究されている。研究代表者は平良晃一(立命館大学)との共同研究で、漸近的にミンコフスキー的な空間の場合のクライン・ゴルドン作用素の本質的自己共役性の新しい簡明な証明、漸近的に定常的なコンパクト空間の場合の自己共役性の証明に成功し、論文を出版した。この分野に関しては、多くの未解決問題があり、さらに研究を継続中である。 (2) 格子上の量子力学系、特にシュレディンガー型作用素の連続極限の問題とは、格子間隔を0に近づけた場合に、何らかの意味で連続空間上の偏微分作用素に収束する、という性質を示すことである。正方格子上の離散シュレディンガー作用素の連続極限については、2021年に出版された研究代表者と只野之英(東京理科大)の共同研究において拡張されたノルム・レゾルベント収束が証明され、新たな研究領域として発展しつつある。研究代表者、只野、P .Exner(チェコ科学アカデミー)の共同研究で得られた量子グラフの場合に引き続き、三角格子を含む一般の格子状のシュレディンガー作用素の場合、グラフェンを記述する六角格子の場合、また離散ディラック作用素の場合などについての研究成果を得て、論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の(1)の研究に関しては、研究代表者のパリ、ワルシャワでのオンラインセミナーにおける研究発表をきっかけとして、新たな研究の進展があり、複数の研究成果を得ることができた。具体的には、漸近的にミンコフスキー的な空間の場合の本質的自己共役性の新しい簡明な証明、漸近的に定常的なコンパクト空間の場合の自己共役性の証明に成功し、時間に関して漸近的に分数巾上で拡大する宇宙モデルの場合、空間方向に漸近的にミンコフスキー的で、時間方向には漸近的に定常的な場合についても証明をほぼ完成させており、論文準備中である。(2)の連続極限の問題に関しても、中村・只野の論文を契機として始められた研究成果に触れたことが刺激となり、新たな共同研究を開始し、いくつかの研究成果を得るに至った。具体的には、三角格子、正六面体格子、正八面体格子などを含む一般の格子状のシュレディンガー作用素の連続極限、一般論が適用できない六角格子の場合、変数係数2階楕円型作用素の場合など、多くの状況下での連続極限のノルム収束の証明に成功し、論文を準備中である。また、離散ディラック作用素の定義に関する物理の理論の翻訳を含む、新たな連続極限の収束の証明にも成功し、論文準備中である。コロナ禍も終了に近づき、直接の研究交流も始まったことで、研究が順調に進展したものと考えられる。全般に、比較的多くの興味深い研究成果が得られたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究課題(1), (2) いずれも、国内外の複数の研究グループにより研究が進展している研究分野であり、研究代表者と共同研究者の研究は順調に進展することが期待される。特に、コロナ禍の収束に伴い、国内での研究交流はほぼ正常化しており、国際的な研究交流も正常化に向かいつつある。特に研究代表者は2024年度に少なくとも3回のヨーロッパ渡航(マルセイユ、パリ、トゥールーズ)による国際共同研究が予定されている。2023年度には、外国人招聘(F. Klopp)が予定されている。これら以外にも、研究の進展に応じて、数回の外国渡航による共同研究、外国人研究者招聘を想定している。これらの状況から、研究計画後半である2023年度、2024年度には、これまでの研究を発展させた形での研究の進展、新たな研究の方向の発見が十分に期待できると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために、予算の大部分を占める海外出張旅費(海外研究者招聘旅費を含む)、国内出張旅費の執行が全く行われず、計画予算を用いることが無かっ た。今年度は一件の外国人研究者招聘があり、来年度以降はほぼ正常に国内外の研究交流が行われる見込みである。特に2024年度には多数の外国出張が既に予定されており、外国人研究者招聘も複数計画されており、研究計画前半の実行できなかった国際研究交流に伴う予算執行が行われる見込みである。
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