2023 Fiscal Year Research-status Report
特異性を伴う非線形偏微分方程式の解構造に着目した数学解析
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21K03312
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
渡邉 紘 大分大学, 理工学部, 准教授 (30609912)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 衝撃波 / 希薄波 / 減衰評価 / 漸近挙動 / 結晶粒界 / 1-調和写像流 / 時間大域解 / オメガ極限集合 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度では「(I) 強退化放物型方程式の解の漸近挙動」, 「(II) 結晶粒界現象を記述する数学モデルの解析」を行い, 以下の結果を得た. (I) 滑らかさと凸性を課した移流項を持つ強退化放物型方程式の1次元初期値問題を考察した. このとき, 移流項の凸性と拡散項の退化性の関係に着目した仮定の下で, エントロピー解の片側リプシッツ評価(オレイニック型評価)を得た. この評価は前年度までには得られなかった希薄波に対する定性的性質を含むものである. 前年度までの解析では衝撃波や希薄波のような特殊解を具体的に構成することを試みてきたが, 希薄波については優解, 劣解のみの構成に留まっており, エントロピー解の漸近挙動を解析するためには希薄波の情報をより引き出す必要があった. 今年度は不等式を用いた評価という形で希薄波の持つ性質を導出した. さらに, 得られた評価を用いてエントロピー解の減衰評価を導出し, エントロピー解の漸近挙動を部分的に特徴づけることができた. また, 減衰評価に関する結果は多次元初期値問題へも応用することができた. (II) 研究協力者の白川氏(千葉大学), Moll氏(バレンシア大学)と共に3次元の結晶粒界現象を記述するフェーズフィールドモデルを考察した. 本年度は時間大域解の存在を証明し, その漸近挙動を考察した. 実際, 時刻無限大でのオメガ極限集合は空ではなくコンパクトになり, 任意のオメガ極限点は定常問題の解として特徴づけられることを証明した. さらに, 初期関数に関するある種の小ささの仮定の下で, 回転を表現する未知関数の挙動が有限時間で止まることを証明した. (I)の成果は現在投稿中である. (II)については局所解の存在に関する査読付き論文(1編)が出版され, 漸近挙動に関する結果を投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までにおいて, 強退化放物型方程式の1次元初期値問題に対して, 適切な仮定の下で衝撃波に相当する解の構成, 希薄波に相当する解の性質を用いたエントロピー解の減衰評価を得ることができた. これらの結果はエントロピー解の漸近挙動の解析に応用することができ, 多次元初期値問題に対しても部分的に結果が得られている. 以上の点においては, 当初の目的を達成することができた. 一方で境界値問題に関する解析は難航しており, 現在も研究中である. 結晶粒界現象を記述する数学モデルに対しては, 解構造の解析については既に結果が得られているが, 一意性に関しては現在も研究中である. 以上より, 本研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
強退化放物型方程式の初期値問題に対しては, これまでに得られた結果を精査し, 仮定の緩和や結果の一般化を試みる. 同時に1次元境界値問題に対する解析を進めると共に, 方程式をより一般化した場合に対しても同様の結果が得られるかどうかを検討したい. 結晶粒界現象を記述する数学モデルに対しては, 解の一意性を証明する方法がいくつかリストアップされているため, これらを検討する. 加えて時間離散化法が適用できるか, 異方的拡散項をもつ場合についても同様の結果が得られるかについても検討したい. また研究協力者との対面での研究打合せを実施し, 研究の更なる進展を図る.
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Causes of Carryover |
物品購入の優先順位を変更したため, 物品費に未使用額が生じている. 未購入物品については令和6年度以降の予算と合算して購入を検討する. 令和3年度がコロナ禍であったため, 出張をすることができなかった分の出張費未使用分がまだ残っている状況である. 国内・国外共に対面での会議が再開しているため, 次年度以降に使用する予定である. その他については, 令和6年度以降の予算と合算にして査読付き論文のオープンアクセス費として使用する予定である.
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