2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K03313
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
眞野 智行 琉球大学, 理学部, 教授 (60378594)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 平坦構造 / 線形微分方程式のモノドロミー / パンルヴェ方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、(計量を仮定しない)平坦構造と大久保型線形微分方程式のモノドロミー保存変形との関係について詳細な研究を行った。前年度に出版された著書においてまとめられたように、(計量を仮定しない)平坦構造の下部構造として3つ組(M,D,Δ)が定まる。一方で、(計量を仮定しない)平坦構造と大久保型線形微分方程式のモノドロミー保存変形が関係することは、本研究課題およびそれ以前の研究の成果として(理論的には)分かっていた。特に、3次元の平坦構造はパンルヴェ方程式と関係する。これら2つの視点を合わせると、(計量を仮定しない)平坦構造の下部構造として定まる3つ組(M,D,Δ)がパンルヴェ方程式の解の不変量を与えるということが期待される。今年度の研究では、(計量を仮定しない)平坦構造に対するポテンシャルベクトル場が満たす拡張WDVV方程式の解を具体的に構成することにより、パンルヴェ方程式の解に対して3つ組(M,D,Δ)および平坦座標系がどのような意味を持つかについて調べた。その結果として次のような成果が得られた: 1.第6パンルヴェ方程式の動かない特異点の近傍での挙動を平坦座標系を独立変数として表示することにより、第6パンルヴェ方程式の(超越的)一般解の局所的構造を記述することができた。 2.平坦座標系を独立変数に取ることにより、第6パンルヴェ方程式の一般解と第5パンルヴェ方程式の一般解とを統一的に記述することができた。特にこれら2種のパンルヴェ方程式の解の間のつながり方を明示的に記述することができた。 特に2つ目の結果は、最近の稲場道明氏や廣惠一希氏による合流と回折を用いた不確定特異点を持つ接続のモジュライ空間の記述とも整合的であり、パンルヴェ方程式の解についての研究の新しい方向性を示唆するものと期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように、今年度は(計量を仮定しない)平坦構造とパンルヴェ方程式の解との関係についての研究で大きな進展があった。第6パンルヴェ方程式の一般解の局所構造の記述と、第6パンルヴェ方程式の(局所的)一般解と第5パンルヴェ方程式の(局所的)一般解とのつながり方の明示的記述である。これらの結果については2024年3月に東京理科大学での研究集会「パンルヴェ方程式の幾何とその周辺」において講演を行った。しかしながら、これらに関係して発見された事柄で未だ理解が足りていないものもいくつか存在するためまだ論文の形ではまとめられていない。そこでこれらの結果を整理し、ある程度十分な理解が得られた時点で論文にまとめることとする。このような理由により「当初の計画以上に進展している」とまでは言えず、「おおむね順調に進展している」という自己評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では(計量を仮定しない)平坦構造とパンルヴェ方程式の解との関係についての研究で大きな進展があった。すなわち、第6パンルヴェ方程式の一般解の局所構造の記述と、第6パンルヴェ方程式の(局所的)一般解と第5パンルヴェ方程式の(局所的)一般解とのつながり方の明示的記述である。しかしながら、これに付随してまだ十分な理解に達していない事柄がいくつか存在する。一つはポテンシャルベクトル場が満たす拡張WDVV方程式の正則解の存在である。拡張WDVV方程式の特異初期値問題に対して4つの異なる正則解が構成できて、そのうち1つは第5および第6パンルヴェ方程式の(局所的)一般解と連続的につながっていることが示される。しかしこの正則解自身はどのような対象を記述する関数なのかが分かっていない。さらに、第5および第6パンルヴェ方程式の(局所的)一般解と連続的につながらない 3つの正則解が何を意味しているのかということも分かっていない。今後はこれらのことを明らかにするための研究を行う。また、平坦座標系を独立変数に取ることによって得られた第5および第6パンルヴェ方程式の一般解の記述を用いて、いくつかの特徴的な特殊解の解析的性質についても研究を行う。これらの研究がある程度まとまった時点で論文を執筆する予定である。また、このような研究の結果はパンルヴェ方程式や平坦構造の研究について新しい方向性を与えることが期待されるため、得られた結果を学会や研究集会などで積極的に発表していろいろな研究者との情報交換を行っていきたい。
|
Causes of Carryover |
研究集会への参加や研究打ち合わせのための旅費として計上していた額に対して、実際にかかった旅費がやや少なかったためその差額分が次年度使用額として生じた。 次年度に、研究集会への参加や研究打ち合わせのための旅費として使用する予定である。
|