2022 Fiscal Year Research-status Report
Global solutions to the Cauchy problem for systems of quasi-linear wave equations satisfying the weak null condition
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21K03324
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
肥田野 久二男 三重大学, 教育学部, 教授 (00285090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横山 和義 北海道科学大学, 工学部, 教授 (20316243)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 波動方程式 / 半線形波動方程式 / 初期値問題 / null condition / 時間大域解 |
Outline of Annual Research Achievements |
空間3次元で標準的なnull conditionを満たさず、複数の伝播速度を持つ半線形波動方程式系の初期値問題を考察した。小さくなめらかな初期値に対して時間大域解が存在するための十分条件であるnull conditionが破綻しているために、時間大域解の存在は小さな初期値の場合でも決して自明ではない。この方面の研究は、考察する波の伝播速度がすべて互いに異なる場合と、例えば、二つの波の伝播速度は同一であるが、もう一つの波の伝播速度がそれとは異なるような3成分のシステムに対する場合に対して行われてきた。今回は後者の設定で考察を行った。後者の問題設定が興味深い理由は、伝播速度がすべて同じ場合にLindbladとRodnianskiが導入したweak null conditionという、小さくなめらかな初期値に対して時間大域解が存在するための十分条件であるかと問題提起された条件が、この問題にも十分条件(の一部)になっているのではないかと期待されるからである。実際には、null conditionが満たされていないために、time decayが遅い成分が混ざり、その成分とは伝播速度が異なる成分との相互作用において、伝播速度の違いから得られているはずのtime decayの得をどのように観測するかが至難の業であり、先行結果においてはそのような相互作用は除外されてきていた。今回、方程式系と初期値が球対称で、よって解も球対称であるような場合に限るものの、上述のような相互作用を入れた系を考察することが出来た。つまり、そのような場合に小さくなめらかな球対称な初期値に対しては、一意的な時間大域解の存在を示すことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
標準的なnull conditionを満たさないときの、小さくなめらかな初期値に対する複数の伝播速度をもつ非線形波動方程式系の初期値問題の時間大域解の存在は、空間3次元の場合にPusateri-Shatah, Hidano-Yokoyama-Zhaによる先行結果があるが、自由解と比べてtime decayの遅い波が、伝播速度が異なるその他の波と2次の相互作用を成す興味深い場合は除外されていた。従来のような「微分の階数が低階のエネルギーに対する時間に関しての一様な評価」「微分の階数が高階のエネルギーに対する時間に関して緩やかな増加を許す評価」おそび「ソボレフ型不等式から従う解の導関数の各点減衰評価」を組み合わせて評価を閉じる方法が、標準的なnull conditionが満たされない場合には破綻するからである。そのために、満足の行く結果を得ることは困難であるが、方程式系と初期値が球対称(したがって、解も球対称)の場合には、空間1次元の場合の議論が使用可能になる。この古典的な考察を今回のような方程式系に適用することを行った。基本的にはSiderisの1983年の論文で行われた、重み付きsupノルムを使い、積分方程式を逐次近似で解く方法を採った。球対称の場合には、一般の場合に使われるエネルギー型のノルムが評価を閉じるのに不要になる。議論が1次元的になるので、supノルムで「微分の損失」が起こらないからである。重み関数は伝播速度に依存しており、そのおかげで上述のような2次の非線形項にはtime decayの得が起きていることを観測できる。この得がtime decayの遅い成分のdecayの損失分を上回ってくれるために十分なtime decayが得られて、時間大域的に評価を閉じることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
空間3次元で球対称の場合を考察したが、これは上述の通り、議論があたかも空間1次元の場合のようになる。そこで、空間1次元のときの問題に応用することを考えている。この古典的な方法が、空間1次元で非線形項が標準的なnull conditionを満たすような、異なる伝播速度を持つ半線形波動方程式のシステムに対する初期値問題の時間大域解の存在の証明に有効であることを指摘した論文は、本文を執筆している段階では、我々が知る限り皆無である。そこで、この方向で研究を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
12月に対面式で行われた研究集会に、事情によりオンラインで参加して発表を行った。その出張費相当分が次年度使用分となった。2023年度は対面式の研究会がこれまで以上に多く開催されると見込まれるので、研究発表のための出張費として活用する予定である。
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