2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K03334
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
塩谷 真弘 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30251028)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 巨大基数 / 強制法 / 飽和イデアル |
Outline of Annual Research Achievements |
現代数学は無限の研究であると言われる。カントルは、無限概念を数学的に取り扱うために集合論を創始し、無限が無数に存在することを証明した。ただし彼の集合論は、現代的な観点からは必ずしも論理的に整合性のあるものではなかった。この欠点を克服するために公理的集合論の体系が整備され、無限を論理的に間違いのない形で研究するための、標準的な枠組みが与えられた。 本研究は、公理的集合論(以下、集合論と呼ぶ)に属し、特に巨大基数の理論に関わりが深い。ただし、実際に研究対象とするのは、比較的小さな(ただし非可算の)無限である。これらの小さな無限がが持ちうる性質の限界を見極めようとする際に必然的に現れる、(無数に存在する)無限の間の個性の違いを明らかにしたい。 本研究では特に、各無限集合上にどの程度の巨大なイデアルが存在しうるか、という組み合わせ論的な問題を考える。この問題にアプローチするためには、標準的な集合論の体系ZFCを超えて、巨大基数の存在を仮定する必要がある。そして、コーエンによって開発された強制法を用いて、巨大基数を小さな基数に崩壊させる必要がある。強制法の基本定理によれば、1つのブール代数には1つの強制拡大(モデル)が対応する。巨大基数を小さな基数に崩壊させるブール代数をここでは崩壊代数と呼ぶことにする。本研究は、新たな崩壊代数を開発し、それに伴って構成されるモデルにおいて小さな無限が持つ性質を詳細に観察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在に至る崩壊代数の研究は、Kunenにまで遡る。Kunenは、huge基数の存在を仮定して、最小の非可算基数上に飽和イデアルが存在するモデルを構成したのだった。Kunenの手法の核にあるのは、Silver崩壊と呼ばれる崩壊代数とそれに伴う普遍崩壊と呼ばれる崩壊代数の構成であった。Kunenの手法は、その後LaverやLaver--Foremanによって飽和イデアルよりさらに巨大なイデアルを含むモデルの構成にも使われている。Laverのモデルの構成には、Silver崩壊に変えてLaver崩壊とそれに伴う普遍崩壊が用いられた。筆者は新たに崩壊代数を定義し、これをEaston崩壊と名付けた。そして、huge基数の存在を仮定して、最小の非可算基数上に飽和イデアルが存在するモデルをEaston崩壊の2回反復により構成したのだった。この結果により、普遍崩壊を構成することなく、自然な崩壊代数の2回反復によりモデルを構成する可能性が開かれた。本研究では、Foreman--Laverのモデルについて同様の結果を得ることができた。Foreman--Laverのモデルの構成には、Silver崩壊に変えてSilver崩壊の入れ子積とそれに伴う普遍崩壊が用いられた。筆者は、以下の結果を証明した。huge基数の存在を仮定する。Levy崩壊の入れ子積を取り、その2回反復による強制拡大モデルを考える。このモデルでは、最小の非可算基数上にForeman--Laverと同様の意味で強い飽和イデアルが存在する。
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Strategy for Future Research Activity |
Laverは、彼のモデルにおいて強力なpolarized partition relationが成立することを示すために、強い意味の飽和イデアルを用いたのだった。また、Foreman--Laverは、彼らのモデルでグラフの彩色数に関する反映原理が成立することを示すために、彼らの意味での強い飽和イデアルを用いた。本研究で筆者が得た新しいモデルにおいてもそれらと同様の結果が成立する。さらに、筆者が開発した崩壊代数は、最小の非可算基数に代えて巨大基数の後続基数上にも同様の巨大なイデアルが存在するモデルを与えることができる。そして巨大基数を特異基数に変えるPrikry強制法を施すことで特異基数の後続基数上に飽和イデアルが存在するモデルが得られる。ただし、その飽和イデアルがLaverやForeman--Laverの意味で強い飽和生を持つかは不明である。そこで今後の研究の方針としては、得られた飽和イデアルが何らかの意味で強い飽和性を持つかを調べることになる。また、筆者のモデルにPrikry強制法を施したモデルで特異基数の後続基数に関するpolarized partition relationが成立するかを調べる。polarized partition relationはErdosの時代に遡るが、正則基数の後続基数の場合はLaverの結果によって解決しており、特異基数の後続基数の場合が重要な未解決問題として残されている。
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Causes of Carryover |
対面による研究集会への参加を予定していたが,開催形式の変更により旅費を使用する必要がなくなったため.
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