2021 Fiscal Year Research-status Report
A Mathematical Approach to Echo Chambers in Social Networking Services
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21K03385
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
家富 洋 立正大学, データサイエンス学部, 教授 (20168090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相馬 亘 立正大学, データサイエンス学部, 教授 (50395117)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | エコーチェンバー / ソーシャルネットワーキングサービス / 有向ネットワーク / 蝶ネクタイ構造 / 強連結成分 / Helmholtz--Hodge分解 / 社会的分断 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS) 上で形成されるエコーチェンバーに着目し,最新のネットワーク解析技術(蝶ネクタイ構造分解,Helmholtz-Hodge分解,コミュニティ抽出など)を用いて,様々なSNSデータを解析し,エコーチェンバーの構造やその形成過程を数理的に解明することである。今年度の研究実績は次のとおりである。 1)先行研究では,2010年米国中間選挙時にTwitterのリツイート機能を通じて有権者間でどのように選挙情報が伝搬したかについてネットワーク分析が行われ,保守系とリベラル系との間でのコミュニケーション・チャンネルは細く,SNS上での政治的分断の発生が示された。本研究では,このリツイートネットワーク(ノード数18,470,リンク数61,157)に対して蝶ネクタイ構造分解を行い,任意のノードが双方向につながっている巨大強連結成分(ノード数1,457,リンク数12,367)が存在し,その中においても閉鎖的傾向は非常に強く,両陣営のエコーチェンバーの核を形成していることをはじめて明らかにした。 2)巨大強連結成分に含まれるループ・サイズ(ループに含まれるノード数)の分布を調べたところ,保守系,リベラル系とも三角ループは少なく,サイズが4から6のループが主要であることを示した。この結果は,同じく米国における政治的分断が観測されるブログ・ネットワークと対比的である。ブログ・ネットワークの巨大強連結成分は,三角ループが主の緊密クラスターである。 3)巨大強連結成分において各陣営内部でリンクの接続をランダム化した場合の結果と比較すると,ループのサイズ分布へのランダム化による影響は微弱である。つまり,構造的には,リツイートネットワークでリンクはランダムに張られているといえる。 4)以上の研究成果を国際会議,日本物理学会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既存の公開されているTwitterデータに関するネットワーク解析は,解析手法(蝶ネクタイ構造分解,Helmholtz-Hodge分解,ネットワークの可視化など)の開発・整備を含めてほぼ予定通りに進められている。また,日本におけるTwitterデータの収集についても順調である。「ワクチン」を収集のキーワードとして,コロナ禍以前の2019年10月に発信されたリツイートから収集開始し,2021年5月までのリツイートの収集を完了した。これまでに収集されたTwitterデータからリツイートネットワークを構築し,得られたネットワークに対して予備的な解析を行ったところ,蝶ネクタイ構造の存在を確認することができた。また,現在さらにリツイートの収集を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の点を強調して,本研究を推進する。 1)これまでに行った既存のリツイートネットワークについての研究によると,ネットワークの構造は,ランダムネットワークの構造と酷似している。すなわち,実際のネットワークにおける強連結成分すなわちエコーチェンバーの規模をランダムネットワークの数理的性質から推定できる可能性がある。ランダムネットワークにおける強連結成分が,その次数分布,ターミナルノード(入力エッジあるいは出力エッジしかもたないノード)の割合,各ノードの入次数-出次数相関などに対してどのように依存するかを数理的に明らかにする。 2)これまでリツイートネットワークの蝶ネクタイ構造をはじめとしてその構造解析に焦点を置いてきた。今後はネットワークの構造のみならずネットワーク上の情報伝搬についても研究を開始する。リツイートネットワークの特徴として各リンクにタイムスタンプが付加されており,循環的な情報伝播(自分が発信した情報によって自分自身が影響を受ける)が実際に発生したかどうかを調べることができる。もし無視できないそのような情報の因果的ループ流が存在すれば,情報の偏在化が動的に生じている可能性が示唆される。つまり,エコーチェンバーの新しい形成メカニズムの発見となる。 3)新しく構築されたリツイートネットワークの強連結成分に対するコミュニティ抽出からエコーチェンバーを検出する。検出されたエコーチェンバーの特徴づけは,自然言語処理およびトピックモデルを用いる。解析手法の開発に時間を要する場合には,その前段階として,各リツイートに付属のハッシュタグを用いて簡易的なコミュニティの特徴づけを行う。 4)Twitterデータの収集にあたっては,コロナ禍を念頭におき「ワクチン」をテーマに選択している。本研究と社会科学との接点を強化するために,新たな喫緊の政治的話題に対しても関心を向ける。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の広がりが収束せず,参加を予定していた国際会議や国内学会がオンライン開催になり,計上していた旅費が未使用となった。また,Twitterデータの購入を計上していたが,Twitter社にデータの学術利用を申請したところ認められたため,データの購入費が必要としなくなった。繰り越した予算は,本研究の成果を広く公開するために,国際会議や国内学会で研究成果を発表するための旅費,出版する学術論文のオープンアクセス化経費として使用する予定である。
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