2021 Fiscal Year Research-status Report
Ground states of generalized Kitaev model on a honeycomb lattice
Project/Area Number |
21K03390
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
鈴木 隆史 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (40444096)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 量子スピン系 / キタエフ模型 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,量子スピン液体の候補物質である蜂の巣格子磁性体αーRuCl3の有効磁気模型の1つ,キタエフーガンマ模型に注目し,その基底状態相図を調べた.この模型の基底状態相図は,蜂の巣格子を形成する3方向のボンド上の相互作用が同じ大きさの場合によく調べられてきた.しかし実際の物質では,低温における結晶の対称性を反映して,弱い異方性,すなわち蜂の巣格子の3方向のボンドのうち特定方向の相互作用が強い,あるいは弱いといったものが存在する.これまで,相互作用の異方性を変えた場合にどのような量子状態が現れるか明らかではなかった.そこで本研究では,相互作用の異方性を変えることで,模型が孤立ダイマー,相互作用が等方的,スピン鎖と変化するパラメータ空間内で現れる量子相に注目し,キタエフ型相互作用とガンマ型相互作用の比,相互作用の異方性を変えて数値シミュレーションを実施した.その結果,模型がスピン鎖的になるパラメータ領域で非常に興味深い状態が現れることを見出した.本模型がスピン鎖で記述される場合,あるパラメータ領域で基底状態は朝永ラッティンジャー(TLL)液体と呼ばれる臨界状態が現れる.通常,このような臨界状態は鎖間の相互作用に対して不安定ですぐに磁気秩序することが知られている.しかし,本模型ではキタエフとガンマ相互作用のそれぞれの符号が特定の組み合わせを持つ場合に,TLL液体がスピン鎖間に相互作用を加えても生き残ることを見出した.またこの状態は相互作用が等方的あるいはそれに近いパラメータ領域まで安定で,相互作用の異方性をさらにダイマーよりにすることでダイマー相へ相転移してしまうことを見出した.この結果は,相互作用の異方性に敏感であることを意味しており,先行研究で議論されてきた相互作用が等方的な場合に現れる基底状態が計算手法に強く依存していた理由を間接的に説明する結果であると言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度,キタエフーガンマ模型においてキタエフスピン液体相以外の新奇な量子相の存在を確認でき,目的の一つとしてあげていた新奇量子状態の発見が達成できた.特に零磁場での基底状態相図に大きな進展があった.すなわち,キタエフ相互作用が強磁性的な負の値をとり,ガンマ項と呼ばれる対称非対角相互作用が正の場合に,1次元のスピン鎖極限で現れる臨界状態,朝永ラッティンジャー(TLL)液体と同じ低エネルギー励起の特徴をもつ相(pTLL相)が現れることがわかった.このpTLL相とTTL相の相境界は数値計算の範囲では存在しないように見え,相転移なく繋がってみえることが数値厳密対角化による計算だけではなく,密度行列繰り込み群法による計算でも確認できた.また,pTLL相での磁気低エネルギーを見ると,TLLで現れるスピノン励起由来の線形分散ならびにその連続帯励起が確認できた.また,異方性が強い極限の一つ,模型がスピン鎖で記述できる零磁場の基底状態についても,先行研究では指摘されていない新しい相が複数存在することがわかりつつある.当初考えられた以上にゼロ磁場においても未解明の量子相が含まれることが明らかになったため,現在それらの相における特徴を解明しつつ研究を進めている.研究計画に記載した磁場中を含めた広いパラメータ空間内での新奇な量子状態(相)については,一足飛びに探索範囲を広めるのは得策ではないと考えている.まずは零磁場での磁気相図の完成を目指し,そこで見つかった新奇な(量子)相の性質を明らかにすることに注力している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,蜂の巣格子上のキタエフーガンマ模型で見つけた,零磁場における新奇量子状態の詳細を明らかにすることを先行させる.新奇量子状態の磁気励起,相関関数,エンタングルメント エントロピーといったものから各状態の性質を明らかにする.その後,当初予定していた磁場中での相互作用の異方性も含めた磁気相図を調べていく予定である.
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Causes of Carryover |
今年度,コロナ感染症拡大により当初予定していた国際会議が延期,中止となったため計画していた海外出張ができなくなったため次年度に繰り越した.2022年度は延期になった国際会議や新規の国際会議が,ハイブリット形式を含めて今後回復が見込めることから,研究成果を積極的に国際会議で発表する予定である.
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