2022 Fiscal Year Research-status Report
Many-body synchronization and non-equilibrium phase transition in frustrated coupled-oscillators
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21K03396
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 就也 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10344649)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 同期現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
有限の相互作用距離を持つ位相振動子の多体系について、振動子が1次元格子上でランダムウォークを行う場合の時空パターンを数値的に解析した。相互作用の位相遅れおよび各時間ステップでの移動確率をパラメーターとして、位相場の時空パターンを統計的に解析した。この系の状態を、完全同期状態、隣接する振動子が一定の位相差を持つツイステッド状態、同期領域と非同期領域が共存するキメラ状態、および非同期状態に大別することができた。 位相遅れが小さい引力相互作用の場合には、ランダムウォークによって位相場が乱されるため、ツイステッド状態が崩壊し、完全同期状態が生じやすくなることが分かった。位相場の拡散の時間スケールと同期が回復する時間スケールを比較することにより、完全同期状態の出現条件を定量的に明らかにした。また、同期状態およびツイステッド状態は、振動子の位相差を表す回転数によって特徴付けられるが、その分布幅は移動確率の関数としてべき乗的に減少することを示した。これは、ランダムウォークによって有効的な相互作用距離が移動確率の平方根に比例して増大すること、および回転数の分布幅が相互作用距離の平方根に反比例して減少することによって説明できた。 位相遅れが臨界値を超えると、完全同期状態が崩壊して系はキメラ状態に遷移するが、その前駆状態として進行波が交差するメッシュ状の時空パターンを見い出した。進行波の速度は移動確率の関数として線形的に増加することが分かった。 位相遅れが大きい斥力相互作用の場合には、ツイステッド状態と非同期状態が共存するキメラ状態が出現するが、ランダムウォークはツイステッド状態を崩壊させる結果、非同期状態が促進されることが分かった。 これらの研究成果は今年度導入したワークステーションを部分的に用いた数値計算によって得られ、査読付き論文として出版されたほか、国内学会において発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主要な研究成果である、ランダムウォークを行う振動子多体系の同期現象の解析は、当初の研究計画を拡張したものであり、位相遅れに加えて振動子のモビリティーという新たな要素を加えたことにより、研究計画に新たな広がりを加えることができた。この系は細胞リズムやモバイル通信機器の同期などに着想を得てモデル化したものであり、比較的単純なモデルであることから、今後さらなる一般化や特定の実験系への応用が期待できる。パラメーター空間の探索に加えて初期条件のアンサンブルに対する統計的な解析を行ったため、数値計算とデータ解析に相当の時間を要したが、数値的結果に対して解析的な手法による検討も加え、理論的に一貫性のある解釈を示すことができた。特に、相互作用が引力的な場合と斥力的な場合でモビリティーの効果が逆となり、それぞれ同期状態を促進および破壊することは、モデルの詳細によらない一般的な性質であり、モバイル振動子系の今後の研究につながる結果であると考える。研究計画の第一の研究目的である、フラストレーションを持つ系と有向浸透現象の関連の解明については、上記モバイル振動子系において臨界転移が見られず、前駆現象としての新奇な時空パターンが見い出されたことから、当初の予想とは異なる形で進展している。 一方、第二の研究目的である、光駆動コロイド粒子系の同期現象の解析に関しては、上記モバイル振動子系の数値解析に多大なリソースを要したことから、今年度は目立った進展を得られなかった。このように、当初計画を超えて進展した部分とそうでない部分が混在しているものの、全体としてはおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度となる2023年度は、当初計画の第二の目的に沿って、実験との比較検証が可能な系を対象として、フラストレーションによる新奇な多体現象を探索する。具体的には光駆動コロイド粒子系について、既存の2粒子系のモデルを多粒子系に拡張することでフラストレーションを導入し、キメラ状態などの時空パターンを数値的に予測、再現する。さらに、粒子配置によるフラストレーションの制御を行うため、直線状、リング状、三角格子、正方格子などの粒子配置を用いて、同期状態およびキメラ状態の解析を行う。 また、当初計画の第一の目的であったフラストレート振動子系と有向浸透現象の関係の解明については、モビリティーを持つ振動子系について当初計画の予想になかった進展が得られたため、フラストレーションとモビリティーの競合による転移現象の探索を新たな目的として策定する。2022 年度に行った研究では、モビリティーが同期に影響を与える一方、同期が振動子の運動に与える影響は考慮されていなかった。運動の自由度と位相の自由度の相互作用は、生物系における同期現象などで重要になると考えられるため、この相互作用を取り入れたミニマルモデルを構築する。具体的には、ランダムウォークを行う振動子のモデルを拡張し、同期状態に依存して運動が変化する場合を考察する。具体的には、振動子が局所的に同期している場合には静止し、同期していない場合のみランダムウォークを行うモデルを構築する。その結果生じる位相場の時空パターンを解析し、同期領域のサイズの時間依存性や位相遅れ依存性を検証する。
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