2021 Fiscal Year Research-status Report
First-principles calculation of finite-temperature transport properties including effects of phonons and magnons
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21K03397
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤井 久純 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (70124873)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 電子フォノン散乱 / 電子マグノン散乱 / 電気伝導度 / 光学伝導度 / 線形応答理論 / 第一原理計算 / KKR-CPA / 有限温度輸送現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
完全結晶における有限温度の電子輸送現象に関しては電子フォノン散乱及び電子マグノン散乱が本質的である.不規則性や界面等を必然的に含む現実物質においても,これらの散乱が輸送現象の温度依存性の主要な要因となっている.本研究の目的は,フォノン及びマグノンによる電子散乱効果を取り入れた第一原理電子状態計算に基づき,電子輸送現象を定量的に評価することである.本年度はフォノンによる電子散乱効果を取り入れた久保・グリーンウッド公式を用いてKKR-CPA法でDC伝導度および光学伝導度を計算するコードの整備を行った.プロトタイプのコードは開始までに整っていたが,Cuなどの単純な金属のDC伝導が600K付近で異常性を示すなど,実験との不一致を示すため,全面的な見直しを行った.その結果,イオンの変位による散乱行列の変化を生成するオペレータの取り扱いに問題があることがわかった.このオペレータの行列を有限次元で打ち切った場合にはもともとオペレータが持っていたユニタリーの性質が失われていること,複素エネルギーに対してはそもそもユニタリーではないこと,などを考慮して正しい取り扱いを導入した.さらに散乱行列の角運動量をどこで打ち切るかが重要であり,角運動量量子数を4ないしは5までとる必要があることが分かった.これらのことを考慮し,さらにコードの整備を行った結果,単体遷移元素金属,およびそれらの合金についてDC伝導度について合理的な結果が得られるようになった.光学伝導度については,従来開発して来たコードは特定の系でしかうまく計算ができないとともに,フォノンによる散乱効果も取り入れられないために,ほぼスクラッチの状態からコードの再開発を行った.このコードを用いてCuなどの単純な金属およびギャップを持った化合物半導体の光学伝導の計算を行った結果,0~50eV程度の波長要域で合理的な計算結果が得られるようになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有限温度での輸送現象の第一原理計算に関しては,すでに過去にある程度の積み重ねがあったが,系によっては計算がうまくいかないことが頻繁に起こるなどの問題があり,本研究の最終的な目標である様々な物資に対する有限温度特性やデバイス構造を含めた系での第一原理計算には問題があった.本年度において,それらをおおむね解消することができ,今後の現実系の計算への準備は整った.このようなコードが,本研究におけるものを含めて世界的にみて2例程度しかないことを考えると,コードの整備は必須の段階であり.その意味で本年度の成果として十分であったといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)計算機コードの安定性と高速性をさらに改善する.現在のコードは,実際には伝導に関与しないチャンネルを含めてすべての成分を含んだグリーン関数に対して線形応答理論を適用しており,角運動量が大きくなると計算時間の増加が著しい.特に,合金系の場合やフォノン散乱,マグノン散乱を取り入れた計算にはバーテックス補正が必須であり,チャンネル数の増加が大きなネックになる.このことから現在のところ網羅的な大規模計算が困難である.この問題を解消するために,必要なチャンネルだけを用いて計算を進めるコードの開発を行う.これによって計算時間を一桁以上減らすことができる.(2)純金属,規則および不規則合金の電気伝導の温度依存性の網羅的計算を実施する.結果の蓄積を行い,これを機械学習におけるデータとして供する.(3)最近,合成に成功した反強磁性ハーフメタル(CrFe)S2について3層構造をもつGMR素子の有限温度輸送特性をシミュレートして,高性能デバイスとしての可能性をさぐる.(4)ゼーベックおよびスピン・ゼーベック効果の計算を行う.学理として,これらの特性を決める機構の解明をそれぞれの物質について議論するとともに,より大きな熱電効果が期待できる物質の探索へ向けた計算を実施する.
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Causes of Carryover |
国際会議のオンライン開催への変更等によって予定していた旅費を必要としなくなったために次年度使用額が生じた.また手持ちのクラスタ計算機を用いてのコード開発とテスト計算が中心となったため,設備の充実等の費用は必要なかった.また,来年度にはコード開発の一部についてコードの共同開発者である小倉昌子博士(ミュンヘン大学)に可能な範囲で外注する可能性を予定している.
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