2021 Fiscal Year Research-status Report
Quantum many-body effects in optomechanics with ultracold atomic gases
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21K03421
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
金本 理奈 明治大学, 理工学部, 専任教授 (00382028)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | オプトメカニクス / 多体量子論 / 冷却原子気体 / ナノ粒子 / 非線形ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
冷却原子気体や固体・液体の浮遊微粒子を用いたオプトメカニクスは、熱源との接触無しに光で振動子を捕捉できるため優れたコヒーレンス特性を有し、超精密測定等の量子技術応用への期待が高まっている。しかし既存研究は主にオプトメカニカル結合のみに由来するダイナミクスの解明に注力しており、他種の相互作用の影響の評価は不十分であった。 本研究では、多体系の運動状態制御技術とオプトメカニカルセンシング感度の向上を目的として、光共振器中にトラップされた原子気体のボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)や微粒子を用いたオプトメカニクスにおける、 (i) 原子間相互作用 (ii) 共振器光を介した複数振動子間の非線形相互作用 (iii) 中性原子と誘電体微粒子表面間にはたらく分散力相互作用、が物質の重心運動のダイナミクスに及ぼす影響を解明する。
2021年度は次の課題について成果を得た: 1. 円環上の原子気体超流動流と、駆動された共振器ラゲール・ガウス光のオプトメカニカル相互作用を利用することで、非常に弱い駆動光で超流動速度を準非破壊に、かつ既存の方法を約3桁上回る感度で測定が可能となる手法を提案した。このセンシングの原理は原子間相互作用の有無によらない。一方で、原子の励起モード間のエンタングルメントや双安定性は、原子間相互作用に大きく依存することが明らかになった。 2. 誘電体表面と中性原子の間には、物質固有の物理量や形状に依存した分散力がはたらく。本研究では誘電体シリカナノ球とセシウム・ルビジウム原子間の分散力ポテンシャルを求め、原子の散乱を広いエネルギー領域にわたって古典衝突理論と量子散乱理論に基づいて解析した。これによりナノ球-原子の散乱現象における様々な量子効果が現れるエネルギー領域と、これら量子効果の物理的起源を解明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は次の3課題からなる。各々の進捗と当初計画からの変更は以下の通りである: (i) 原子間相互作用を厳密に考慮したBECのオプトメカニクス:この系に対する理論的アプローチには「共振器モード、BECともに古典的に扱う」「共振器モードは量子力学的に扱い、BECは古典的に扱う」「共振器モード、BECともに量子力学的に扱う」という三種が考えられる。これまでに各々のアプローチによる理論解析・数値解析手法を整備し、「研究実績の概要1」で述べた系の再解析を異なるアプローチから多角的に実施することが可能となった。また今度研究をすすめる上で、領域に応じた最適なアプローチを選択する指針が明らかになった。 (ii) 共振器光を介してグローバルに結合した多振動子集団:複数の振動子が共振器光子と結合することで、振動子間にはグローバルな非線形結合が生じ、複数振動子間の同期現象などの集団運動が生じ得る。当初計画では振動子としてナノ粒子を想定し、複数ナノ粒子の非線形ダイナミクスを解析する予定であったが、2021年度中に競合する類似研究が発表され始めたことから、本研究ではナノ粒子を原子気体の集団運動に変更し、この系の非線形現象の解析に着手した。 (iii) 冷却原子とナノ粒子の混合系:「研究実績の概要2」で述べた研究を通して、ナノ粒子による原子の分散力ポテンシャル散乱における量子効果の種類とその物理的起源、また量子性が顕になるエネルギー領域を具体的に明らかにすることができた。特に、本質的な量子効果が顕れるのはボース凝縮またはフェルミ縮退レベルの極低温であることが判明したことから、今後はこのような極低温領域での分散力相互作用の解析に注力する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き次の3課題を進めていく。 (i) 原子間相互作用を厳密に考慮したBECのオプトメカニクス:2021年度に引き続き、円環上の原子気体超流動流が、駆動された共振器ラゲール・ガウス光と結合するオプトメカニクス系を対象とする。特に低励起量子領域において、凝縮モードと共振器モードをともに量子力学的に扱い、かつ原子間相互作用を厳密に考慮することにより、共振器中のBECに対する量子多体論を展開する。また原子間相互作用に由来する有効非線形性に起因した双安定性の相図作成、ギャップソリトンの安定性解析にも取り組む。 (ii) 共振器光を介してグローバルに結合した多振動子集団:共振器中にトラップされたBECの非線形ダイナミクスを解析する。共振器光と原子の相互作用、原子間相互作用、および駆動光の強度のパラメータとして、単一BECの自励振動が顕れる領域を明らかにする。またこのようなBECを含む共振器を多数連結させたときの同期ダイナミクスや、ナノ粒子を含む共振器と連結させたときの協同冷却の可能性を調べる。 (iii) BECとナノ粒子の混合系:2021年度に明らかにしたナノ粒子による冷却原子散乱の知見に基づき、BECとナノ粒子の混在系における、分散力ポテンシャルによるナノ粒子の量子ブラウン運動の変化を解析する。更に光を介したナノ粒子の量子状態測定という従来のオプトメカニカルセンシングとは異なる、原子気体を介したナノ粒子の量子状態の精密測定法を提案する。
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Causes of Carryover |
感染症の状況をふまえて2021年度内は国内出張を取りやめた。同じ理由で講演依頼も行わなかったため謝金が発生しなかった。翌年度以降に状況を見ながら国内外出張や講演依頼を再開する予定である。
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Research Products
(5 results)