2021 Fiscal Year Research-status Report
Dynamics of bright and dark states in primary process of photosynthesis investigated by multi ultrafast spectroscopy
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21K03425
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉澤 雅幸 東北大学, 理学研究科, 教授 (60183993)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超高速分光 / 明・暗準位 / 光合成初期過程 / 時間分解発光分光、 |
Outline of Annual Research Achievements |
光合成初期過程の光捕集作用では光エネルギーを吸収できる明準位だけでなく暗準位もエネルギー移動の過程で大きな役割を果たしている。しかし、従来の超高速吸収分光法ではこれらを区別して観測することは困難であった。本研究の主な目的は、マルチ超高速分光法を開発し明準位と暗準位を明確に区別して観測することで光捕集作用のエネルギー移動を解明することである。これによりエネルギー移動を高効率化する指針を得ることができる。さらに、同じように明準位と暗準位をもつカーボンナノチューブの励起子系などへに応用も行う。 本研究の測定法は、明準位を観測するためのフェムト秒発光分光法と暗準位を観測するためのマルチ励起光を用いた非線形フェムト秒吸収分光法である。本研究の目的達成には広い観測可能波長範囲と高感度が必要である。令和3年度は発光分光法の開発に取り組んだ。 発光の時間分解検出法としては和周波発生法を選択した。これは観測が必要な発光波長が900~1000nmの近赤外であるため、検出器の測定感度が高い可視域(400~500nm)に波長変換する方法が有利なためである。本研究の特徴は装置の最適化に波長制御されたフェムト秒白色光を用いることである。これは研究代表者が独自に開発した4f光学系を用いた光パルス制御により実現されている。 令和3年度に達成した装置性能は、励起光波長490~560 nm、発光観測波長 550~1000 nm、時間分解能 150 fsである。和周波の発生効率は30%程度であり、光電子増倍管により光子計数レベルの検出感度を得ている。光合成系の光アンテナ分子であるフコキサンチンに応用しており、ICT状態からの近赤外発光の時間分解検出に成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は和周波発生法による発光分光装置の開発と光合成系の光アンテナ分子の測定を行う計画であった。しかし、令和3年2月の地震により光源のレーザーの安定性に問題が生じたため遅れが生じている。さらに、令和4年3月の地震でレーザーが完全に故障してしまい現在は研究が中断している。 令和3年度は安定性に問題がある装置でも実施できる開発として、検出器の選定と測定感度の確認を行った。検出器の候補として光電子増倍管と液体窒素冷却CCDを比較した。CCD検出器では詳細なスペクトル測定が可能だが、微弱光検出には長時間露光が必要であり、宇宙線によるノイズが問題となった。光電子増倍管ではレーザーに同期した測定によりノイズの問題を避けることに成功した。最適化と感度テストは、フェムト秒白色光から我々が開発した4f光学系で10 nmのスペクトル幅の光を切り出してテスト光とした。この方法では装置の時間分解能も精度よく決定できる。装置性能は、励起光波長490~560 nm、発光観測波長 550~1000 nm、時間分解能 150 fsであり、ほぼ目標を達成することができた。また、光子計数レベルの感度が得られることも確認した。ただし、レーザーの安定性の問題で測定精度は不十分である。 装置はまだ開発途上であるが、光合成系の光アンテナ分子であるフコキサンチンに応用した。フコキサンチンは光学許容であるS2状態を光励起した後に、S1/ICT状態を作ることが知られているが、そのダイナミクスには不明な点もある。S1状態は光学禁制であるがICT状態は光学許容であり900~1000nmの発光をするため、発光分光によりICT状態のみの観測が可能となる。既に、ICT発光の時間分解観測に成功しており、S2からS1への緩和よりもICT生成が遅いことが確認されている。
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Strategy for Future Research Activity |
故障したレーザーは令和3年2月の地震被害の復旧の対象となっており、更新が予定されている。ただし、令和4年3月の地震で他の部分にも被害がでているため、早期に完全な復旧ができるかは不明である。ここでは、装置が復旧して本来の安定性が得られた場合の研究方針を述べる。 装置が復旧するまでの期間は、初年度に明らかとなった問題点の解決を行う。具体的には、ゲート光に存在するサブパルスの影響の除去である。和周波法ではゲート光強度に比例した信号が検出されるため、主パルスの1/30程度の大きさのサブパルスが信号に影響を与えている。本研究の装置ではテスト光の測定が行えるので、この信号を利用する。フーリエ変換を用いることで影響を補正できることが原理的に示されているので、これまでの測定データを用いて解析手順を確立する。 装置復旧後は令和4年度内に遅れを取り戻す計画である。時間分解発光分光装置の感度は確認済みなので、装置の安定性と測定精度の確認を行い、フコキサンチンのS1/ICT状態の高精度発光測定を行う。フェムト秒吸収分光も同時に行い結果を比較することで、明準位と暗準位のダイナミクスを詳細に調べる。 暗準位を積極的に観測するために近赤外ゲート光を用いた非線形吸収分光測定を開始する。この手法では近赤外域での高精度測定と近赤外ゲート光の波長選定が重要であるため、近赤外プローブ光によるフェムト秒吸収分光の高精度化と試料の過渡吸収の測定を行う。さらに、第2励起光により明準位のみに影響を与えるPump-Dump-Probe分光法の活用も検討する。 試料としては、まず光合成系の光アンテナ分子であるカロテノイドを用いる。その後、光捕集色素蛋白複合体およびカーボンナノチューブへと応用する。得られた成果は、学会および論文として発表をする。
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