2021 Fiscal Year Research-status Report
層状化合物超薄膜のファンデルワースル界面に局在する2次元電子状態と電気伝導特性
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21K03432
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
八田 振一郎 京都大学, 理学研究科, 助教 (70420396)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 層状化合物 / 超薄膜 / ヘテロ界面 / 電気伝導度 / 角度分解光電子分光法 / 低速電子回折法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、二次元層状化合物のファンデルワールス(vdW)界面に局在する二次元電子状態の物性解明を目指し、金属カルコゲナイド(Bi2Te3など)の超薄膜(ヘテロ構造を含む)の作製および物性評価を、超高真空(UHV)対応4端子電気伝導測定法を中心とした複数のその場測定を組み合わせて実施する。超薄膜は分子線エピタキシー法によって作製する。このとき、層状化合物の熱分解が起こらず、なおかつ実用的な成長速度が得られる温度にるつぼ温度を制御する必要がある。初年度にあたり、これに必要な温度制御器(335型、Lake Shore社製)と蒸着装置を立ち上げた。また、蒸着実験を行うUHV槽の真空排気システムの更新のためターボ分子ポンプ(HiPace80, PFEIFFER社製)を導入した。 実験としては、Bi2Te3超薄膜の作製を行い、電気伝導度のその場測定を行った。このとき、過去に報告のないCaF2(111)/Si(111)基板を用いた。主に低速電子回折法により結晶性の評価を行い、単結晶のBi2Te3超薄膜が得られる成長条件(蒸着速度や基板温度)を見出した。また、角度分解光電子分光(ARPES)法によるバンド構造の測定を行い、vdW界面電子状態およびトポロジカル表面状態がFermi準位にあることを確認した。10 nm以下の膜厚範囲で電気伝導度の膜厚依存性が得られ、vdW界面電子状態およびトポロジカル転移に対応する伝導度の増加を検出した。 このほか、層状化合物と金属の原子レベルで平坦なヘテロ界面の作製が期待できるSi(111)上のIn超薄膜の研究も行った。Mgの共蒸着によってSi-In界面にバッファー層が形成され、その上に自由電子的な電子構造をもつ新しいIn2原子層の金属超薄膜が形成されることを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Bi2Te3はファンデルワールス(vdW)界面を有する層状化合物の特性として、格子整合条件によらず多様な基板上で(111)配向した結晶性薄膜として成長する。しかし、ほとんどの場合、原子層の積層が180度反転したtwinドメインが共存する薄膜となっている。この反転ドメイン間の境界は構造の乱れとなるだけでなく、隣接するドメイン間の反転したスピン構造の影響によって伝導キャリアに対する強い散乱因子となる。そのため、vdW界面や薄膜表面に由来する本質的な物性の検出を難しくする可能性がある。今回、Si(111)上にエピタキシャル成長させたCaF2(111)薄膜を基板とした場合、Bi2Te3はtwin-freeな単結晶薄膜として成長することを見出した。実験開始当初はドメインサイズが小さく、回転したドメインの共存も見られたが、Si/CaFバッファ層およびCaF2薄膜の作製条件から最適化することにより、これを解決した。今後作製するヘテロ超薄膜についても電気伝導におけるドメイン境界の影響が抑制されることは重要である。さらに、薄膜が単結晶で作製できることはスピン分解角度分解光電子分光法の適用が可能になり、実験の選択肢が増えることにつながった。 一方、単結晶薄膜の作製条件を探索する過程において、低速電子回折パターンからドメインサイズや配向性を評価するプログラムを作製した。これによりヘテロ構造の作製も効率的に行う準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、7 nmの膜厚までのBi2Te3超薄膜の電子構造および電気伝導度の膜厚変化を明らかにした。今後は、Bi2Te3/Bi2Se3ヘテロvdW界面の実験を行う。具体的にはBi2Te3超薄膜の上にBi2Se3超薄膜を成長させることにより、Te原子層とSe原子層が接するヘテロvdW界面を作製する。ヘテロ界面の電子状態からの光電子を検出するため、Bi2Se3超薄膜の厚さは2 nmまでとする。また、前年度、Bi2Te3超薄膜を厚さ2 nm成長させた後では、基板の影響が小さくなることにより、結晶成長における温度条件が緩やかになる(室温から100℃程度まで)という結果が得られている。このことを考慮して、Bi2Te3超薄膜の膜厚は2 nm以上、全体で7 nmまでのヘテロ構造超薄膜を作製する。それらのバンド構造や電気伝導度をBi2Te3超薄膜と比較することにより、ヘテロ界面の効果を明らかにする。 本研究では層状化合物超薄膜の膜厚(層数)評価のためラマン分光測定も計画していたが、角度分解光電子分光法で測定したバンド構造と第一原理バンド計算との比較から膜厚を決定する方法が有効と確認されたため、当面は実施しないこととした。ただし、その準備として組んだ超高真空槽内の試料表面に外部から光を集光照射し、さらに偏光面を回転する機構を、電気伝導度測定に用いる4端子プローブと組み合わせ、光電流の検出に用いることを検討する。
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