2021 Fiscal Year Research-status Report
正方カゴメ格子磁性体における新奇量子スピン状態の創出と発現機構の解明
Project/Area Number |
21K03453
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
藤原 理賀 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 講師 (60722840)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 正方カゴメ格子 / フラストレーション / 量子スピン液体 / 物質探索 / 量子スピン系 / チェッカーボード格子 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子スピン正方カゴメ格子反強磁性体の初のモデル物質であるKCu6AlBiO4(SO4)5Clではギャップレススピン液体の振る舞いが観測されたが,結晶構造の考察から構築された有効スピン模型を用いた理論計算の結果とは一致しない部分があり,模型が不適切である可能性を示している.新奇量子スピン状態の創出および実験・理論の不一致の解消を目指し,ファミリー物質群KCu6AlSbO4(SO4)5ClおよびKACu6TeO4(SO4)5Cl (A = Mg, Cd) を創製する.この置換効果を比較することにより,有効スピン模型の妥当性が検討できる.また化学的圧力効果により,相互作用比が変化するため,新奇量子スピン状態の創出につながる.研究初年度は,KMgCu6TeO4(SO4)5Clの合成に成功した.現時点では磁性不純物を完全には除去できていないが,帯磁率測定の結果,既報物質とは異なり,スピンギャップ的振る舞いが観測されている. 同時進行で行われた別系統の正方カゴメ格子化合物の探索では,正方カゴメ格子と同様に強い幾何学的フラストレーションを内包するチェッカーボード格子を形成するモデル物質の合成に成功した.低次元磁性体特有の振る舞いが,帯磁率,μSR,中性子非弾性散乱実験により観測された.現在はそのスピン状態の理解も目指し,理論研究者と議論を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成を行う所属大学のキャンパスが都内中心部にあるため,COVID-19の影響により,大気中で不安定な試薬や毒物を用いた複数の工程を含む合成の機会は減らさざるをえなかった.そのため,ファミリー物質群KCu6AlSbO4(SO4)5ClおよびKACu6TeO4(SO4)5Cl (A = Mg, Cd) の純良試料の合成は未達成である.その一方で,本研究開始すぐの段階で,Cu2+がチェッカーボード格子を形成する新物質の合成に成功し,量子ビームを利用した実験の実施まで達成できた.さらには,ジャロシンスキー-守谷相互作用が誘起するスピンフラストレーションを内包する擬一次元量子磁性体に対して,様々な実験を実施する機会を得て,その結果を論文として出版することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,所属先変更に伴う合成環境の立ち上げから開始する.そのため,早期に再開可能な実験を見極め,本プロジェクトの進路修正を行う必要がある.当面は,昨年度に見出したチェッカーボード格子磁性体の候補物質の帯磁率,μSR,中性子非弾性散乱実験の結果の解析を進めつつ,KMgCu6TeO4(SO4)5Clの純良試料の合成を目指す.一方で,所属機関はJ-PARCおよびJRR-3が設置されている敷地内に存在するため,下半期および次年度に量子ビームを利用した最も効果的な実験および解析が行える様,ビームライン担当者らとの対面の打ち合わせを実施する.
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