2021 Fiscal Year Research-status Report
極低温強磁場中回転機構による希土類化合物の磁気異方性の展開
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21K03464
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
阿部 聡 金沢大学, 数物科学系, 教授 (60251914)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 宏一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10219496)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 四重子秩序 / 超伝導 / 極低温強磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
物性研究において,極低温環境により物質の基底状態を実現させ,基底状態をもたらす相互作用機構を解明することは,物性物理学などの学問の発展だけでなく, 新規物質の発見や利用などの応用にもつながるため,極めて重要である。実際に,基底状態を実現させるには,相互作用に匹敵する温度まで冷却する必要があるが,相反する相互作用が拮抗している場合や 高次の秩序変数が支配的な場合,必要な温度領域は2桁以上低温になるため,非常に困難である。さらに,極低温と高磁場を合わせた多重極限状態での物性研究は一層困難になるが, 磁気モーメント間の相互作用の異方性を明らかにする上で極めて有効である。 本研究では,温度 10 mK (0.01 K),磁場8Tの極低温強磁場がなければ実現できない f 電子の秩序状態の研究として,電気四極子が秩序変数となる希土類カゴ状物質と巨大磁歪を示す絶縁体スピン系物の 研究を行い,多重極限環境に試料回転機構を導入し,結晶軸に対する磁場方向を変化させた熱膨張・磁歪測定を行うことで,四極子間相互作用や磁気弾性係数の異方性を明らかにし, 基底状態をもたらす f 電子間相互作用の機構を解明を行う。 このため,回転機構により極低温強磁場環境下において歪測定セルを回転させ磁場方向を変化可能な測定システムの開発を行うとともに,交流インピーダンス測定による磁場中帯磁率測定装置を開発し,希土類カゴ状物質における50mK以下の極低温秩序状態の測定を実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
極低温強磁場環境において歪測定装置を回転させ,試料の熱膨張・磁気歪を測定するため,ピエゾ回転駆動素子を用いる方法と機械回転式駆動機構を用いる方法の2通りの装置の試験を実施した。その結果,ピエゾ回転素子の回転トルクが十分でなく,歪測定装置を十分回転させることが困難であることが判明した。一方,機械回転式駆動機構では,歪測定のバックグラウンドに角度・温度・磁場依存性があり,測定歪に換算し最大10^-5程度の大きさを示すことを明らかにした。その原因は,歪測定の静電容量測定ケーブル等の影響が強く考えられるが,原因は不明である。バックグウンドは,試料の熱膨張・磁歪に比べ十分小さいものの,試料の磁気異方性の角度分解能の精密測定には支障となる可能性があるため,バックグラウンドの原因解明とより詳細なバックグラウンドの角度依存性を明らかにする必要がある。 一方,歪測定装置への試料固定において,ねじ止め等による応力印加を避けるため,導電性接着剤を使用するが,極低温では,接着剤の熱伝導度が問題になる。このため,使用予定である導電性接着剤の低温電気伝導度を測定し,試料冷却が十分行われていることを確認した。 しかし,現有する希釈冷凍機システムのヘリウム循環ポンプが故障し,必要な到達真空度を得ることができなくなったため,本研究費で,新たにヘリウムリークタイトなスクロール型排気装置を導入し,入れ替え作業を実施した。 以上より,当初の計画より,若干進展が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
機械回転式駆動機構を用いた歪測定でのバックグラウンドの角度依存性を詳細に測定し,試料を用いた測定結果から差し引くことで,試料自体の歪を検出する方針である。 また,研究対象であるカゴ状希土類化合物PrIr2Zn20の極低温超伝導状態の解明には磁場中交流帯磁率測定が不可欠であるため,交流インピーダンスブリッジを用いた帯磁率測定システムの開発を行い,2Kでの試験を行っている。帯磁率検出用2次コイルのペアは,1次コイルとの相互インダクタンスを相殺できるよう同等に巻く必要があるが,現時点の設定では,高精度測定には相殺が不十分であることが判明したため,検出コイルの再製作に取り組んでいる。再製作後は,再度2Kでの試験を行い,高精度測定が可能であることを確認できれば,希釈冷凍機を用いた測定へと進展させる
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