2021 Fiscal Year Research-status Report
1億水分子での分子動力学シミュレーションによるマイクロ液滴の変形と分裂挙動の解明
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21K03484
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
古石 貴裕 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (20373300)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉井 良則 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (50324140)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水滴 / 分子動力学シミュレーション / 大規模シミュレーション / 1億水分子 / 水滴衝突 / 水滴分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
1000万-1億水分子での分子動力学(MD)シミュレーションを行うため、シミュレーションプログラム開発と高速化を行った。本研究では、大規模水滴のMDシミュレーションを実現するため、天体シミュレーションで使われている tree 法を使用している。この手法では、ある粒子から見て遠方にある粒子との相互作用を多極子を用いまとめて計算することで計算量の削減を実現している。 tree 法での計算量の制御には見込み角を用いる。見込み角を大きくすると、多極子で相互作用を計算する粒子が増え、計算量が減少し計算速度が向上するが、近似計算の量も増えるため計算精度が低下する。一方、見込み角を小さくした場合は、計算精度は向上するが計算速度の向上は少なくなる。 tree 法を用いて全エネルギーが一定となるようなシミュレーションを行ったところ、系の全エネルギーが一定とならず上昇する現象が見られた。このエネルギー上昇は見込み角を大きくして、より計算速度を速くしたとき顕著となった。これは tree 法による計算量を削減した近似計算が原因であり、見込み角を小さくするとエネルギー上昇は少なくなり計算精度の改善が見られた。ただし、この場合は tree 法の特徴である計算の高速化の効果が少なくなる。 このときのエネルギー上昇の原因を詳しく調べたところ、相互作用の直接計算と多極子計算の境界で、相互作用計算におけるエネルギーギャップが存在していることがわかった。そこでこの境界が設定される条件を最適化したところ、エネルギー上昇が少なくなり、計算精度が改善され、計算の高速化が達成された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はシミュレーションプログラムを改良し、計算速度および計算精度を向上させた。 本課題開始以前にはクーロン力を、近似によりある距離以上は計算しないカットオフ法を用いて計算し100万水分子での水滴シミュレーションを実現できたため、本課題では tree 法を用いた計算を実現すべく、シミュレーションプログラムの改良を行った。 カットオフ法は周期境界条件を用いたバルク系で使用を想定して作られているため、水滴系のような表面のある系における有効性は示されていない。そこで本研では銀河や惑星などを対象とした天体シミュレーションで用いられてる tree 法を使用し、クーロン力をカットオフせずに計算するようプログラムを改良した。 tree 法では遠方にある粒子からの相互作用は、個々には計算せず、複数の粒子とひとつの多極子と考え、その多極子との相互作用を計算することで演算量を減らし、計算の高速化を行っている。近傍にある粒子とは個々に直接相互作用計算を行うが、直接計算の領域と多極子計算の領域の境界において、計算方法が変わるため、エネルギー一定のシミュレーションを行った場合でも、エネルギーが上昇する現象が見られた。 このエネルギー上昇の原因を詳しく調べ、計算速度と計算精度がともに向上する計算条件を見出すことができた。これにより、tree 法の計算時間はカットオフ法の計算時間に対して約1割増加程度に抑えることができ、カットオフ法より精度の良いシミュレーションを実現できた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究でシミュレーションプログラムの改良を行い、100万水分子を超える大規模水滴のシミュレーションを実現できるようになったので、今年度は平滑面および凹凸面に対する水滴衝突のシミュレーションを行う。 これまでに行ったカットオフ法による水滴衝突シミュレーションにより、水滴が広がるとき端の高さが中央部より高くなる現象や衝突速度が速いときに起きる固体表面上での液滴分裂過程を詳細に観測できたため、 tree 法を用いた計算でも同様な現象を、より現実に近い条件で再現できると考えられる。そのため、表面の疎水度、凹凸面における柱の高さや形状などを変化させ、様々な条件における水滴衝突シミュレーションを実行し、その結果を解析する。 来年度は高分子からなるより複雑な表面への水滴衝突シミュレーションの実行を予定しているため、高分子表面の作成準備を行う。 現在でも100万水分子でのシミュレーションは可能であるが、今後分子数がより多い水滴でのシミュレーションを行うために更なる高速化を行う。現在はシミュレーション実行中、系に固定している原子も動く原子と同様な処理で相互作用を計算しているが、シミュレーション中に位置が動かないという特徴を利用して、計算の高速化が行えると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により学会がオンライン開催になったため、旅費として使用する予定だった予算を次年度に繰り越すことになった。 今年度は現地開催の学会が増えると見込まれるので、学会参加旅費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)