2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K03490
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
名越 篤史 国士舘大学, 理工学部, 准教授 (70750579)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 康平 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 准教授 (60612166)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 1次相転移 / 固液臨界点 / 多孔性物質 / 水 / トリステアリン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2年目に実施した内容について概要を報告する。 まず、開発を行っていた高圧下温度変調示差走査型熱量計だが、測定感度が低く多孔性試料内のわずかな融解熱を観測できていない。圧媒体の存在下で散逸する熱量が大きいため、圧力以外の物理量を変えながら温度変調熱測定を実施することを検討している。 次に、水以外で固液相転移類似の現象を示す物質として、棒状の分子形状をもつトリステアリンについてメソ細孔内での融解現象を調査した結果について報告する。メソ細孔内でトリステアリンは棒状の分子が単純かつ平行に配列したα相を形成することがわっている。今年度は、トリステアリンを水のような小分子でも結晶化しない1.1 nmの細孔径を持つシリカゲルや、細孔径2.1 nmのメソポーラスシリカ細孔に封じたところ、断熱型熱量計による精密熱容量測定によってどちらも結晶化し、昇温方向で明瞭な融解ピークを示すことがわかった。また、網目状で歪な細孔形状をもつシリカゲル細孔では、結晶化・融解のヒステリシスが観測されたが、1次元シリンダー状のメソポーラスシリカ内では過冷却せず2次転移のような結晶化・融解の相転移を示すこともわかった。これは、おそらく1次元シリンダー細孔内で融解したトリステアリンはα相と同じように細孔に平行に整列していて、結晶相と液体相が類似の構造を持っているからと予想される。このことは、水が低温で氷類似の水素結合ネットワークを形成していることと整合的である。一方で、このことを確認するために細孔内のトリステアリンの構造解析を、外部機関である電通大のDSC-XRD同時測定や物材研の温度可変型高輝度・高感度型粉末X線回折装置を用いて確認したが、有用なデータをとることができなかった。2.1 nm細孔内に2,3しか分子が整列していないため、周期構造を検出することが難しかったのだと理解される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高圧下温度変調DSCの開発は、圧媒体の存在により感度が小さくなり、目的とする細孔水の結晶化・融解を測定することが難しくなっている。一方で、温度変調型の熱測定を用いて電場など圧力以外の物理量を変えて温度変調DSCを測定することは可能であり、それにより固液臨界現象を調査することは可能である。 また、水以外で水と同じように可逆な結晶化・融解を示す物質としてトリステアリンを発見し、その相挙動を調査し、多くの知見を得ることが出来た。特に似たような細孔サイズに関わらず、細孔形状によって、結晶化・融解ヒステリシスが大きく異なる挙動を示すという結果を得ることが出来たことは、固液臨界現象につながる可逆な結晶化・融解の1次転移の機構を明らかにするうえで、大きな進展となる。おそらく、結晶相と液体相での分子の凝集構造の類似性が起源となると予想されるため、現在はそれにつながる実験的な確証を探索している。ただし、トリステアリンは水よりも大きな分子でメソ細孔中では細孔壁や結晶の小ささにより構造解析が困難となっている。 圧力下温度変調熱測定や構造解析などいくつかの試みは困難となっているが、興味深い性質を示す試料を発見し、それについて調査・実験を行っているため、おおむね研究は順調に進展しているものと理解される。
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Strategy for Future Research Activity |
高圧下での温度変調熱測定の測定感度を十分なレベルまで高くすることは困難だが、電場など圧力以外の状態量を変えて温度変調示差走査熱量測定により相転移挙動を調査することを検討している。さらに、高圧下においても温度変調でない単純な熱分析については十分可能であるため、これを利用して高圧下での相挙動も調査することを検討している。 また、メソ細孔中のトリステアリンがメソポーラスシリカでは可逆な結晶化・融解を示し、ただのシリカゲルではヒステリシスを示したことについて、その起源を調査する予定である。2つの多孔性物質の細孔形状では、細孔がシリンダー状かスリット状かの違いと、3次元網目状に連結しているか連結せずに孤立しているかの違いがある。そのため、シリンダー状で、連結している細孔や、スリット状で連結していないメソポーラスシリカを合成し、そこに封入したトリスタリンの相挙動を調査することを検討している。 また、メソ細孔内のトリステアリンの相挙動の起源を直接明らかにするための構造解析が細孔壁などによって困難なため、その他の方法として、よりミクロな状況でも情報を得るたことができる分光学的な実験を検討している。トリステアリンの結晶相は、特にアルキル基の充填状況による副格子構造によって特徴づけられ、それらは赤外やラマンなどの分光測定によって調査することが出来ると考えられる。現在、低温で実験できる赤外分光測定用のクライオスタッドを製作中である。
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Causes of Carryover |
参加して旅費などを支出する予定の国際学会の延期などがあったため、次年度に使用する予定である。 あまた、当初、水以外でターゲットとなる試料を探索するために作成するつもりの熱分析装置について、すでにトリステアリンを見いだしているため、本研究に関係するそのほかの測定が可能な装置への改良を検討していて、そのための電子機器の購入を検討した。一方で、いくつかの電子機器は半導体不足等で納品が遅れている。現在は、キーサイト製34420Aナノボルトメーターなどの納品を待っている状態であるが、いくつかは近日中に納品予定である。
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