2022 Fiscal Year Research-status Report
変形可能なアクティブマターにおける集団的秩序形成の数理的研究
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21K03496
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
斉藤 稔 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 准教授 (20726236)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アクティブマター / ソフトマター / 自己組織化 / ジャミング / トポロジカル欠陥 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の集団運動は、鳥や魚の「群れ」の集団運動と同様、ある種のアクティブマターとみなすことができる。一方で、細胞の場合は、個々の細胞の形が変形しうるという点で従来のアクティブマター研究とは大きく異なる。 特に密な生体組織では細胞が力学的相互作用を通じ絶えず変形し、安定した発生や組織の恒常性が担われている。細胞変形という観点から細胞集団の秩序形成や生体組織の自己組織化を読み解くことは非常に重要な問題であり本研究の主要な目的である。 前年度までに、変形可能な「ソフト」なアクティブマターの研究の基礎となるモデルを構築し、変形可能細胞を万オーダーの数で計算可能な計算フレームワーク開発することができた。このモデルを用いて、排除体積効果で相互作用する高密度の自己駆動細胞集団の解析をおこなったところ、細胞の柔らかさで固体-流体転移が起こることを発見した。この転移自体は先行研究においても報告されていたものであるが、さらに新規の液液相転移が起こることを確認した。この液液相転移では、細胞が大きく変形しながら流動化する相と、細胞が丸い形状を保ちなが ら流動化する相の間で転移が起こり、さらにこの転移はトポロジカル欠陥のパーコレーションで特徴づけられることも明らかにした。またKTHNY理論で現れるhexatic相も別個存在することも明らかにし、細胞変形によって非常に多様な液体相が現れることを示した。現在は論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数理モデルの定式化、実装、高速化などは既に達成済みである。さらに「変形可能であることで初めて顕れる集団的秩序現象」も発見し、トポロジカル欠陥のパーコレーションという、実験的にも検証可能な秩序パラメータなども提案した。また論文も執筆し現在投稿中である。このため、目的の主要部分は達成したと言って良いため、順調な進行状況であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
提案モデルは、変形細胞集団の大規模シミュレーションを行うことができる非常に重要なモデルであり、様々な生命現象のシミュレーションに応用できるポテンシャルを秘めている。より発展性、応用性を広げるために、細胞分裂や細胞接着の導入などを行う。また現在のモデルを三次元に拡張し、より多様な文脈に応用可能なモデルに発展させることも計画している。現在のモデルは細胞輪郭のフーリエ展開を基礎としているが、三次元への応用は球面調和関数を用いた展開を用いる。また実験研究者との共同研究や、ゲル・コロイド系など非生物系への応用も模索していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初購入予定であった計算機を購入する以前の段階で研究がひと段落ついたため、一旦得られた結果を論文化した後、大規模数値計算を行うことにした。そのため次年度に計算機の購入を後ろ倒しする。論文も執筆し投稿したが出版には至らなかったため、論文出版費用も次年度に繰り越すことにした。
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Research Products
(6 results)