2022 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive understanding of heavy-ion collision dynamics, pion production and Delta resonance in medium
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21K03528
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小野 章 東北大学, 理学研究科, 助教 (20281959)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池野 なつ美 鳥取大学, 農学部, 講師 (30756086)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 重イオン衝突 / π中間子生成 / Δ共鳴 / 輸送模型 / 反対称化分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核同士の衝突(重イオン衝突)では、例えば通常の約2倍の高密度が実現し、不安定核ビームの利用により陽子中性子の非対称度を変化させることもできる。本研究では、核子多体系としての運動を解く反対称化分子動力学(AMD)に別の輸送模型(sJAM)を組み合わせる枠組みを用いて、衝突ダイナミクスからπ中間子生成などの観測量までの総合的理解を目指している。前年度までに、NN→NΔ過程などにおいて核子(N)やΔ共鳴のポテンシャルを適切に取り扱う手法を確立し、それによりπ生成に大きな影響があることがわかったところである。 NN→NΔ過程では、高運動量の2個のNが低運動量のNとΔに転換されるため、ポテンシャルの運動量依存性の影響を強く受ける。今年度は、特に、中性子過剰な環境下での、陽子ポテンシャルと中性子ポテンシャルの間の運動量依存性の違いにより、荷電π比(π-/π+)が強く影響を受けることを発見した。それに対し、対称エネルギーの影響やΔのポテンシャルのアイソベクトル部分の影響は相対的に小さい。すなわち、荷電π比は、高密度下における陽子と中性子のポテンシャルの運動量依存性の差異を抽出できる観測量だと言える。この成果を発表するための論文をまもなく投稿する予定である。 本研究での理論模型はエネルギー保存を大前提としている。本来はオフシェル効果を考慮するのが望ましいが、基本的な解決は難題である。今回は、最も簡便な試みとして、Δの吸収や衝突を起源とする幅の広がりをΔのスペクトル関数に取り入れた。その効果は、低運動量のπの生成量を増すようにはたらき、理研のSpiRIT実験等で得られているスペクトルの形状をよく再現できることになった。 結果として、π中間子生成に関する実験データを概ね再現するとともに、観測量がもつ物理的な意味を明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた研究は概ね実施できた。さらに、ポテンシャルの運動量依存性の重要性を発見したのは、想定外の成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を継続して詳細な分析を進め、発展させる。 現在までのところ、本研究ではπ中間子のポテンシャルは無視してきた。πのポテンシャルの影響について、今後調査する予定である。 重イオン衝突は複雑な過程であり、理論の予言が模型に依存するのが問題で、克服する必要がある。輸送模型評価プロジェクト(TMEP)の国際共同研究で、現在、核子やΔ共鳴などのポテンシャルを考慮した上での箱の中のテスト計算を実施しているが、他の模型コードとの比較を進め、重イオン衝突から得られる情報について、最終的な結論を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症蔓延により、予定していた国際学会等にオンラインで参加したため、残額が生じた。次年度に国際学会等に対面で出席するために使用する予定である。
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