2022 Fiscal Year Research-status Report
In-medium properties of K meson and partial restoration of chiral symmetry
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21K03530
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
慈道 大介 東京工業大学, 理学院, 教授 (30402811)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ハドロン物理 / カイラル対称性 / ストレンジクォーク / カイラル対称性の部分的回復 / K中間子 / K中間子核子散乱 / インスタントン液滴模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、K中間子などストレンジクォークをプローブとして用いて、QCDの真空構造に対するストレンジクォークの役割を明らかにすることを目的とし、K中間子(K+, K0)に対する媒質効果を理論的と現象論的の両面から明らかにする。本年度は、主に、負電荷K中間子重陽子反応によるΛN相互作用におけるアイソスピン対称性の破れの観測可能性、ハドロン複合性の定式化、核媒質中でのη'中間子スペクトル関数について研究を行った。これらの業績は研究協力者である大学院生との共同研究によるところが大きい。 1. Λと核子の低エネルギー相互作用のアイソスピンの破れ、すなわちΛpとΛnの相互作用の違いは、ハイパー核構造を理解する上で重要である。本研究では、負電荷のK中間子と重陽子の反応から放出されるπ中間子の電荷を選ぶことでΛpとΛn相互作用の違いを系統的に観測できることを見いだした。この散乱過程は既存の実験施設で実験が可能であり本研究で得られた知見は意義深い。 2. ハドロンの複合性を実験観測量から定量的に評価する方法を確立することはエキゾチックハドロンの構造を理解する上で重要である。先行研究の提案する方法を用いると重陽子の複合性が1を超える問題があった。従来の方法では、ポテンシャルのエネルギー依存性が他の物理状態に起因するとし素元性の源としていたが、本研究では他の物理状態に由来しないエネルギー依存性が複合性を1より大きくすることを発見した。つまり、重陽子を形づくる核子相互作用には他の物理状態に由来しない固有のエネルギー依存性があることが分かった。本研究成果は現在論文にまとめているところである。 3. 原子核中におけるη’中間子のスペクトル関数を実験的に測る計画が進められている。実験条件により、η’中間子は原子核中で有限な運動量を持ちうるので、スペクトル関数における有限運動量の効果を二つのη’核子の現象論的模型を用いて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は当初の予定より順調に進んでいる。特に、ハドロンの複合性の定式化において、ポテンシャルのエネルギー依存性が他の物理状態に由来するものだけではなく、相互作用固有のエネルギー依存性があることを発見できたことは大きい。これは複合性を定式化する際に量子力学の枠を超えて、場の理論を用いて定式化する必要があることを示している。今後、格子QCD等の場の理論に基づいた計算との関連を調べることで、ハドロンの複合性を計算する方法を確立したい。K中間子と核子の散乱データから核媒質中のストレンジクォーク凝縮の変化を調べる研究においても、昨年度に引き続き、その軟極限を取るために散乱データをカイラル摂動論で記述することを行った。I=1では充分によく記述できるもののI=0では実験データ間に矛盾があるようでよいフィッティングを得ることができなかった。今後、実験条件により近い重陽子標的での計算を行うことで、I=0についてもよい理論的記述を得たいと思っている。核媒質中のη’中間子のスペクトル関数の研究も今後展開が来される。スペクトル関数に対する運動量依存性の重要性を指摘したことによって、観測に対しても多くの知見を得ることができた。また、二つのη’核子散乱の現象論的模型は、今後、相対論的平均場模型によるη’中間子原子核の束縛状態の計算にも応用ができ、η’中間子原子核の存在可能性の議論を進展させる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、研究成果が出ている分については早急に研究論文として発表をしたいと思っている。特に、KN弾性散乱による核媒質中のストレンジクォークについてとハドロンの複合性についての研究は、それぞれについて充分に研究成果が出ているので、早急に論文としてまとめたい。その上で、それぞれの発展的課題に取り組みたい。前者については、重陽子標的を用いた計算を行い、実験データを直接用いてKn散乱振幅の理論的記述を行いたい。後者については、格子QCD計算との関連を明らかにする。その他にも、インスタントン液体模型を用いたクォーク凝縮の計算では、インスタントン液滴模型がいわゆるスタンダードなカイラル対称性の破れに属しているように見えることが分かってきた。今後、この知見をメソンスペクトルの計算で確認すると同時に、なぜアノマリー駆動のカイラル対称性の破れにならないかを検討していく。相対論的平均場模型を用いたη’中間子原子核の計算では、η’中間子に対する複素ポテンシャルを考え、吸収効果を実装していく。ポテンシャルに対する吸収効果と束縛状態の崩壊幅との関係を調べ、η’中間子原子核の測定実験への知見を得たいと思っている。また、得られた束縛状態の波動関数とエネルギースペクトルを用いて、核媒質中のグリーン関数を表現することで、η’中間子原子核の測定の散乱断面積を予測に役立てたいと思っている。
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Causes of Carryover |
現地参加を予定していた国際会議が延期となったため、旅費として使うことができなかった。今後、国際会議が現地開催となったときに旅費として使用する。また、海外渡航が円滑に行えるようになれば、海外の研究者との共同研究打ち合わせとして使用する計画である。
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Research Products
(28 results)