2021 Fiscal Year Research-status Report
次世代大型電波望遠鏡による小スケール原始ゆらぎの解明に向けた研究
Project/Area Number |
21K03533
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田代 寛之 名古屋大学, 理学研究科, 特任准教授 (40437190)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 宇宙構造形成史 / 初期密度ゆらぎ / 電波天文学 / 宇宙マイクロ波背景放射 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、宇宙初期に生成されるUltra Comapct MiniHalo(UCMH)の制動放射を利用した小スケール原始ゆらぎの制限の研究をおこなった。この研究ではまず、UCMHの制動放射シグナルが小スケールの原始ゆらぎの大きさに依存することを示した。宇宙論的な制動放射のシグナル強度の上限値は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)観測Planckによって得られている。そこで、この観測値と理論予測値を比較することで、小スケールの原始ゆらぎについての新たな制限を得ることができた。またこの宇宙論的制動放射は次世代大型電波望遠鏡Square Kilometer Array(SKA)でより更に精密に観測される。そのためこの研究の成果は、SKAにより更に詳細な小スケールゆらぎの情報を得ることができることを示している。この研究の成果は既に査読付き学術論文として公表されている。 また宇宙最初期の星である初代星の超新星爆発の影響をCMBで探る研究もおこなった。初代星も小スケールのゆらぎの情報をもつ本研究課題での重要なターゲットの一つである。この初代星の超新星爆発は現在の標準的な超新星爆発の100倍以上のエネルギーになる可能性がある。そこでこのような超新星爆発の宇宙論的影響、特に水素原子の電離に焦点を当てた。この電離によって生まれる自由電子はCMBを散乱させるため、その影響が検証可能である。CMB観測Planckの結果を解析した結果、超新星爆発の発生率に制限を与えることができた。その結果はこれまでの初代星に関する理論シミュレーションと無矛盾な結果であった。ここで明かされた超新星爆発の宇宙論的影響はSKAに更に詳細に検証可能である。この研究の成果も既に査読付き学術論文として公表済みである。 この他にも広い意味での電波望遠鏡での小スケールゆらぎ探査の理論研究として、3件の査読付き学術論文を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小スケールゆらぎの有力なプローブ天体であるUCMH探査の新たな手法を開発することができた。これまでUCMHの有力な存在量制限は、UCMH中の暗黒物質の対消滅を利用したものであり、暗黒物質の素粒子的性質に強く依存していた。しかし、この研究で開発した手法はUCMHの元素ガスに注目しており、未知の物質である暗黒物質の性質によらないUCMH存在量制限を取得可能であり、この点において非常に画期的である。また本年度のUCMH研究の波及効果として未知の物質である暗黒物質の正体を探る上でも、UCMHからの電波シグナルは重要な働きを示すことがわかった。 現在の観測精度では、初代星の観測やその存在量を知ることは非常に難しい。しかし我々は初代星の超新星爆発に着目することで、初代星の存在の痕跡を探る手法を提案した。また実際にCMB観測Planckのデータ解析をおこない、その超新星爆発の存在量に制限を与えれたことは、SKAによるより詳細な制限の可能性の示唆にもつながっており、本研究課題において今後の研究の進捗につながる大きな意味を持つ。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究進捗状況も順調なことから、当初の研究計画に沿って研究を進めていく。 今後も電波望遠鏡による小スケールゆらぎ探査の研究を進める。特に本年度の研究によりUCMHは重要な宇宙論的電波源であることを示すことができた。このことはこれまでの既存の観測手法以外にもさまざまなUCMH探査観測が立案可能であることを示している。電波望遠鏡だけでなく、CMB観測なども含めて、そのUCMH探査の可能性を広く追求し、小スケールゆらぎの解明の研究を行う。 また、電波望遠鏡によるミニヴォイドヴォイド探査の研究も行う。ヴォイドは、重力成長により更に物質密度の疎な領域であり様々な宇宙論の検証に使われている。そこで電波望遠鏡による小サイズのヴォイド探査の可能性を探り、小スケールのゆらぎの統計的性質、ゆらぎの大きさやゆらぎのガウス性の検証可能性も検討する。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍での行動規制により、研究打ち合わせを目的とした国内旅行が当初の計画よりも減少した。また国内旅行による現地参加の予定であった研究成果発表のための学会参加もオンライン参加となり、国内旅行の必要性がなくなった。
|
Research Products
(6 results)